第951話 闇に染まる妖精(4)
「やったぜ! なら今からだ。今から戦おう!」
その言葉を聞いた冥は興奮したように、ゼノにそう言った。
「え、今から? でも冥はスプリガンと戦うんじゃないの?」
「ゼノの兄貴が戦ってくれんならそっちが先だ! 何せ大体100年ぶりだからな! スプリガン、てめえと戦うのはゼノの兄貴との戦いの後だ! だから逃げんなよ!」
「・・・・・・・・・呆れるくらいに戦いが好きな奴だな」
満面の笑みを浮かべる冥。そんな冥を見た影人は本当に呆れたように言葉を漏らした。よくもまあ、2連戦で戦おうなどと思うものだ。
「ゼノの兄貴もスプリガンも地下に行くぞ! ほら早く!」
「分かったから落ち着きなよ。全く、面倒だなー」
「・・・・そこは同意するぜ」
冥に急かされたゼノと影人はイスから立ち上がった。すると、影人たちの様子を見ていたシェルディアも同時にイスから立ち上がった。
「あれ、シェルディアも来るの?」
「ええ、せっかくだから私は見学させてもらうわ。きっと面白いでしょうし」
ゼノがシェルディアにそう質問した。シェルディアはゼノの問いかけに軽く頷くと、笑みを浮かべた。
「・・・・・・待て、ゼノ。そう言えば、お前はまだ力を封印したままではなかったか? お前が帰ってきたのは数日前だが、お前は面倒がって封印の解除をしていなかったはずだ」
影人、冥、ゼノ、シェルディアが部屋から出て行こうとしたタイミングで、レイゼロールが思い出したようにゼノにそう言葉を掛ける。レイゼロールからそう言われたゼノは、「ああ、そう言えばそうだった」と頷いた。
「でも大丈夫だよ。俺、多分この封印壊せるし。ええと、こんな感じかな?」
しかし、ゼノはぼんやりと笑うと自身の右手で自分の体に触れた。そして、瞳を閉じて集中するように息を吐く。次の瞬間、ゼノは瞳を開き自分から少しだけ離れた空間を掴むように右手を握る。その右手をバッと勢いよく虚空に振るった。
すると、見えない何かが弾けるような音が部屋の中に響いた。
「ッ!?」
その光景を見たレイゼロールは、信じられないといった表情を浮かべた。闇人に封印を施していたレイゼロールには分かる。ゼノは間違いなく、今まで施されていた封印をどういうわけか破壊した。レイゼロールにはそれが信じられなかった。
「うん。戻ったね。待たせたね冥、スプリガン。じゃ、行こうか」
「? おう!」
「っ・・・・・? ああ・・・・・・・・」
ゼノは何でもないようにそう言った。ゼノが正確に何をしたか分からない冥と影人は、取り敢えず頷くと、部屋を出て行ったのだった。
「あの子・・・・・凄いわね。本当に自力であなたが掛けていた封印を破った。私にもどういう原理か分からないけど・・・・・・・・あの感じだと、昔よりも更に強くなっているかもしれないわね」
ゼノの行動を見ていたシェルディアは、部屋に残りながらそう呟いた。
「ああ・・・・・・・もしかしたら、ゼノは何か高みの領域に至ったのかもしれんな・・・・・・」
そして、レイゼロールも真剣な表情を浮かべそう言葉を漏らした。




