第950話 闇に染まる妖精(3)
「・・・・・・・・・凄くはない。さっきレイゼロールから聞いたと思うが、俺はこの力をある者から押し付けられた。要は貰い物の力だ。俺はただ、その強力な力を振るっているに過ぎない」
ゼノの賞賛の言葉に、影人はふいとゼノから顔を背けながら言葉を吐いた。レイゼロールは影人を仲間に加えるという話を終えた後に、自分が伝えた目的の事や力の由来などについて『十闇』に話した。それを聞いた者たちの反応はそれぞれであったが、それは今はどうでもいいだろう。
影人がゼノに言ったこの言葉は紛れもなく影人の本心であった。影人は望んで力をソレイユから与えられたわけではない。最終的に力を得る選択をしたのは影人だが、望んでいたわけでは決してない。
影人の力は借り物の力だ。自分が努力して手に入れたものではない。そして影人が借り物として得た力は、原理などはよく知らないが、どうしようもなく強力なものだった。
だから、影人は心の底から自分が凄いなどと思った事は決してない。影人がレイゼロールや最上位闇人と渡り合ってこれたのは、その借り物の力のおかげだ。それがなければ、影人は数秒で殺されるような他愛のない人間だ。影人はその事をしっかりと自覚していた。
「そうかな? 俺は全くそうは思わないけど」
だが、ゼノは軽く首を傾げながらそんな事を言ったのだった。
「っ? なぜそう思うんだ・・・・?」
ゼノの予想外の答えに、影人はついそう聞き返した。
「確かに君の力は借り物なのかもしれないけど、それを使って戦って来たのは君自身のはずだろう? 力は扱う者に依存する。いくら強力な力を持っていてもそれを適切に上手く使えなければ、それは強力な力とは呼べないよ。でも、君はその力を上手く使って来たからこそ、今ここにいるんだよ。だから、俺は君を凄いと思うよ」
「ッ・・・・」
ただ素直にゼノはその理由を述べた。その言葉を受けた影人は、どこか衝撃を受けたような顔を浮かべた。ゼノと会ったのは今日が初めてだ。影人はゼノがどんな人物であるのか全く知らない。だが、なぜかその言葉が嘘ではないと直感的に感じた。
「・・・・・・・・・・どうやら、あんたは変わった奴みたいだな」
「うーん、レールなんかにもよく言われるよ。俺自身はそんな感覚ないんだけど」
影人はゼノにそんな感想を述べた。それを聞いたゼノは、相変わらずぼんやりとした笑みを浮かべ、首を傾げていた。
「おいスプリガン! いつまでゼノの兄貴と喋っていやがる! 戦うぞ!」
影人がゼノと話をしていると、冥がバンッと円卓を叩きながら影人の隣に立ってそんな事を言ってきた。他の闇人たちは話し合いが終わると早々にこの部屋から出て行ったので、今この部屋に残っているのは、影人とゼノと冥、そしてレイゼロールとシェルディアだけだ。シェルディアは何とも面白そうな表情を浮かべながら、影人の事を見つめていた。絶対に間違いなく、影人の様子を見て楽しんでいる。
「・・・・・・・・・・確かに後で戦うとは言ったが、ここでか? どう考えても普通に壊れるぞ」
「地下に修練場があるんだよ。そこで戦る。ほら立てよ。行くぞ」
冥はどこか興奮したような顔でそう捲し立てた。こいつ本当に根っからの戦闘狂だなと影人は思った。
「冥は変わらないなー。やっぱり、まだ戦いが大好きなんだね」
「当たり前だぜ、ゼノの兄貴! 俺は誰よりも強くなりてぇからな! そうだ、ゼノの兄貴もまたどっかで戦ってくれよ。俺、昔よりかは強くなったぜ」
「えー・・・・・・俺、あんまり戦いは好きじゃないんだよね、面倒くさいし。まあ、気が向いたらいいよ」
「ゼノの兄貴の気が向く時っていつだよ・・・・・あ、そうだった。おいレイゼロール。お前、ゼノの兄貴と俺が戦うように取り計らうって約束したよな? ゼノの兄貴説得してくれ」
ゼノと話をしていた冥はその事を思い出すと、唐突にレイゼロールにそう言葉を掛けた。
「・・・・・・・・・・確かに約束したな。正直、覚えているとは思わなかったが」
「人をバカみたいに言うんじゃねえよ!」
冥にそう言葉を掛けられたレイゼロールはポツリとそんな言葉を漏らした。レイゼロールの言葉を聞いた冥は、少しキレたようにそう言葉を放った。
「・・・・・・・・ゼノ。悪いがそう言う事だ。冥と1度戦ってやれ」
「レールって昔からそういうところあるよね・・・・でもまあ、レールがそう言うのなら仕方ないか。いいよ、冥。君と戦ってあげる。好きな時に声を掛けて来て。応じるからさ」
レイゼロールからそう言われてしまったゼノは軽くため息を吐くと、冥にそう言った。
「やったぜ! なら今からだ。今から戦おう!」
その言葉を聞いた冥は興奮したように、ゼノにそう言った。




