第95話 シェルディアの東京観光3(3)
(ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 最悪だっ!!)
内心叫び声を上げながら、影人は少女に言葉を返した。
「・・・・・・・・・俺と話してもきっと面白くはないと思うぞ。悪いことは言わない、やめときな」
できるだけ声が変わらないように、やんわりと拒否の言葉を投げかける影人だが、内心は「絶対に関わりたくない」という強い気持ちだった。
「少なくとも、この短い時間だけでもあなたと話して私は面白かったわ。それに、悪い人じゃないのも分かったし。だめかしら?」
少女が影人を見上げる。じっと見つめてくる少女に影人は目に見えてたじろぐ。
「あ、あのな・・・・・・こう見えて俺は口下手なんだ。だ、だから・・・・・・・」
何がこう見えてか。どう見てもこいつは口下手である。
「・・・・・・・・・・・・」
「うっ・・・・・・・」
じぃっと自分を見てくる少女に影人は悟る。あ、だめだ。これ「わかった」って言うまで帰れないパターンだ。
「・・・・・・・・・・やっぱり面白くないなんて言うなよ?」
「ええ!」
どのような因果か、影人は傘で不審者を殴り飛ばした不思議少女に気に入られてしまった。
話すにも立ち話は何なので影人と少女は近くの小さな公園に移動した。小さな公園といえど、ベンチの1つくらいはあるので2人はそこに掛けた。
「自己紹介がまだだったわね。私はシェルディアと言うわ。日本に来た理由は観光とか色々よ」
シェルディアは陽華や明夜と出会ったときと同じように、隣に座る前髪の長い少年に自己紹介を行った。少し距離を取られている理由は、シェルディアにはよくわからない。
「・・・・・・・・帰城影人だ」
「そう、あなたは影人というのね。影人は学生だと言ったけれど、陽華と明夜という子を知ってる? あなたと出会う前に2人は道案内をしてくれたの」
同じ制服を着ているということは、影人とあの2人は同じ学校ということだろう。日本の文化について、それほど詳しくはないシェルディアにもそれくらいは分かった。
「っ・・・・・・・・ああ。といっても直接の知り合いじゃない。あの2人は俺の学校じゃ有名人でな。風洛の生徒なら誰でも知ってる」
まさか、この少女の口から2人の名前が出てくるとは思わなかった影人は、一瞬息を呑んだが、それらしい説明を少女に行った。
「へえー、あの2人有名人だったの。とっても気の良い2人だったわ」
「・・・・・・・・まあそこは否定しねえ。それよりも、何で嬢ちゃんは俺と話なんかしたがるんだよ? あんたからすりゃ、俺なんか旅行先で出会ったただの学生だ。なんで、そこまでして・・・・・・・」
チラリとシェルディアを見ながら、影人は先ほどから抱いていた疑問をぶつけた。そう、そこが分からない。シェルディアはいったい自分のどこが気になったというのだろうか。
「言ったでしょ? あなたと話すのは面白かったって。後は、そうね・・・・・・・・あなたの纏う雰囲気がミステリアスだから、かしら」
「ミステリアス? 俺がか・・・・・・?」
シェルディアの言葉は思ってもいないものだった。そんなことは影人は1度も言われた事が無いし、また自分で思ったこともない。
「ええ。何て言うのかしら、不思議な雰囲気だわ。一見、エピソードを感じられないようなただの人間。でも、その奥には何か、普通ではないエピソードを感じるわ」
少女の言葉は抽象的であった。普通の人間はそんな言葉を聞かされたところで頭に?マークを浮かべるだけだ。そしてそれは影人も例には漏れなかった。




