第940話 カケラ争奪戦 中国4(2)
(・・・・・・・・ん? 何だ? レイゼロールの背後の闇に何かいる。闇に同化するみたいに、レイゼロールに近づいている・・・・・・・・)
スプリガンになり視力が向上しており、更に闇で眼を強化した影人は、レイゼロールの背後に何者かが近づいているのを見た。黒い布のようなものを全身に纏っており、顔は見えない。そして、その男は右手に何か大きな、黒い物を持っていた。影人はその黒い物が何なのかを確かめるために、少し目を凝らした。
(っ!? あれは・・・・・・・・・・!)
影人はその黒い人物が右手に何を持っているのか見た。その人物が持っていたのは、黒い大鎌だった。刃までもが黒く染まった凶々しい大鎌だった。
(「フェルフィズの大鎌」! あいつか・・・・・! レイゼロールの奴は気づいてないのか!?)
釜臥山で影人を襲い、ロンドンにも出現した謎の人物。神殺しの忌み武器を持つその人物は、レイゼロールに近づき、そして鎌のリーチ内にレイゼロールを捉えたのだろう。フェルフィズの大鎌を両手で持ち、ゆっくりとそれを振りかぶった。レイゼロールはよほど集中しているのか、まだ背後の事態に気づく様子はない。
「ちっ・・・・・・・・!」
影人はレイゼロールを助けるべく、レイゼロールと自分の対角線上に闇色のゲート、「影速の門」を展開させた。そしてフルスピードでその門に向かって空を駆ける。影人がその門を潜ると、影人のスピードは更に加速した。
「・・・・・・・・・」
黒フードの人物が、レイゼロールの首めがけて大鎌を振るった。そのままレイゼロールの首を切り飛ばす魂胆だろう。レイゼロールは不老不死の神。普通ならば首を切り飛ばされたとて死にはしない。しかし、神殺しの武器である「フェルフィズの大鎌」だけは話が別だ。あの鎌に首を切られれば、レイゼロールも死ぬ。
「やらせるかよ・・・・・!」
影人は神速の速度でレイゼロールの元に辿り着くと、その速度のままレイゼロールの腰に右手を回し、レイゼロールを攫った。影人がレイゼロールを攫った瞬間に、死の大鎌はレイゼロールが今いた場所を裂いたのだった。
「っ・・・・・・・・・!?」
「ッ・・・・!? スプリガン・・・・・・・? 貴様、これはいったい・・・・・・」
大鎌を振るった黒フードの人物は、確実に仕留め切れると思っていたレイゼロールが急に消えた事に驚いた。一方、影人に突如抱き抱えられたレイゼロールは、未だに何が何だか分かっていないようだった。本当にいったいどこまで集中していたんだよ、と影人は内心でつい呆れてしまった。
「・・・・正直、お前がこれほど抜けていたとは思わなかったぜ。集中するのはいいが、ここは戦場だ。最低限の警戒の意識だけは常に残しておけよ」
そのままの勢いで攫ったレイゼロールと共に地面に着地した影人は、今レイゼロールがいた場所に左の人差し指を向けながらそう言った。
「なっ、奴は・・・・・・!? そうか、我は奴が近づいて来ていた事に気がつかずに・・・・・・・礼を言うスプリガン。お前が助けてくれなければ、我は今ごろ死んでいただろう」
影人の指差した方に目を向けたレイゼロールは、黒フードの人物がいる事にようやく気がついた。そしてレイゼロールは事態を理解し、スプリガンに感謝の言葉を述べた。まさかレイゼロールに感謝の言葉を述べられると思っていなかった影人は、少し驚いたような表情を浮かべた。
「・・・・・ふん。気にするな。ここであんたに死なれちゃ俺が困るってだけだ。それよりも、あれだけ集中してたんだ。カケラの場所は分かったのか?」
「・・・・まだだ。あと3分ほど集中すれば、完全に特定できるとは思うが・・・・・・・・・それはそれとして、そろそろ我を下ろせ。もう必要はないはずだ」
「・・・・・それはそうだな」
少しだけどこか恥ずかしげにそう言ったレイゼロールに、影人も自分がレイゼロールと密着しているという状況を認識した。今になってレイゼロールの細い腰の感触や、少し冷ための体温を影人は右腕に感じた。影人も内心でこの状況に少し恥ずかしさを覚え、レイゼロールを地面へと下ろした。
「・・・・・・・・・・」
不意をつきレイゼロールを殺せなかった黒フードの人物は、鎌を右手で持ちながら影人たちの方を見つめて来た。顔の上半分はフードで見えないが、確かに見ていると、普段前髪で顔の上半分が隠れている影人は理解していた。
「ちっ、手間取らせやがって。私はさっさと仕事終わらせて帰りたいってのによ」
「・・・・・・・」
そのタイミングで、影人が召喚した闇のモノたちを全て片付けた菲と葬武も影人たちの方に近づいて来た。だが、影人たちに近づいて来た事によって、菲と葬武も黒フードの人物に気がつく事になった。
「ああ? 誰だあの黒フード野郎は?」
「・・・・・さあな。だが、味方ならば何か言ってくるはずだ」
菲はその顔色を疑問に染め、葬武はどこか警戒したような目を黒フードの人物に向けた。黒フードの人物は、菲たちには何の反応も示さなかった。




