第935話 カケラ争奪戦 中国3(1)
「・・・・・・・・けっ、調子に乗りやがって。ムカつくぜ。いけ好かねえ真っ黒な蝙蝠野郎が・・・・・!」
スプリガンからそう言われた菲はギリっと歯軋りをしながら、スプリガンにそう言葉を吐いた。菲の表情には侮辱された事への怒りがあった。
「だが、そう言うだけの強さはある。俺は奴の速度に反応できなかった。・・・・・・面白い。ここまでの強者と出会ったのは久方ぶりだ。血湧き肉躍る」
一方、葬武は菲とは違いほんの少しだけ口角を上げていた。葬武はこの戦いが自分にとって有益なものになると確信した。
「はっ、頭がどうかしてんな。これだから戦闘バカは理解できねえぜ。こっちは舐められてるってのによ」
葬武の笑みを見た菲は理解に苦しむといった感じでそう呟くと、再度自身の力を一定消費させ、自分の前に黒兵2体と頭兵1体を召喚した。こんなに人形を何度も召喚するのは、菲にしてみればかなり久しぶりだった。
「思い知らせてやるぜ。力だけが戦場を支配するんじゃないって事をな。戦術と計略。私はその力でこの場を支配してやる!」
菲はそう意気込むと、隣にいる葬武にこう言葉を飛ばした。
「おい『天虎』! てめえは変わらずにスプリガンに全力で攻撃しろ! お前も武人ってやつなら舐められっぱなしは嫌だろ!?」
「ふん。先ほどは好きに暴れろと言ったくせに、勝手な奴だ。・・・・だが、いいだろう。元々俺は奴を攻撃するつもりだったからな。貴様の指示に従ってやる」
葬武はそう言うと、影人に再び接近してきた。かなりのスピードだ。
「・・・・・遅いな」
だが、今の影人からしてみれば葬武のその速度は止まっているように見える。影人は葬武に自分からも接近すると、葬武の顎目掛けて右の昇拳を放った。
「ッ!?」
葬武はスプリガンの昇拳が自分の顎に触れた瞬間に、顔ごと体を仰け反らせた。それは信じられない超反応だった。
(っ、これに反応しやがるか・・・・・・!)
まさか反応されるとは思っていなかった影人は、内心で葬武の超反応に舌を巻いた。1度自分のこの速度を体感しただけで、これ程の反応をするとは。影人は最上位の守護者というものを少し見直した。
(だが、隙は出来たぜ)
体を反らした葬武は、そのまま後ろに倒れ込むように回ろうとしている。しかも葬武はそのまま影人にサマーソルトキックを喰らわせようとしている。全く抜け目のない男だ。影人は葬武が完全にその場で回転する前に、ガラ空きの葬武の胴体に左の肘打ちを放った。
「ぐっ・・・・・・・・!?」
影人のその一撃を葬武は今度はまともに受けてしまった。メキっと嫌な音が自分の体から響いたのを葬武は聞いた。葬武は背中から地面へと叩きつけられた。
「今だ。白兵2、能力を解放。速撃の矢を放て」
葬武が地面に倒れ、射線が確保できた事を確認した菲は、自分の前にいる弓を持った白い人形にそう指示した。
「・・・・・・・!」
菲にそう指示された白兵の持つ弓が一瞬白く輝いた。そして、白兵は影人に向かって矢を放った。その矢は明らかに一矢目の矢よりも段違いに速かった。
(へえ、今の俺でも中々速いって感じる速度か。やるじゃねえか)
仕組みは分からないが、明らかに普通の矢のスピードではない。
「・・・・だがまあ、俺には当たらない」
影人は矢を避けようとはしなかった。当然の事ながら、矢は影人に肉薄する。あと1センチほどで矢が影人の額に命中する。しかしその前に、影人は右手で矢の篦の部分を右手でパシリと掴み取った。容易いように。
「ッ!? ちぃッ! 頭兵、能力を解放。鬼神と化せ! 黒兵1、2、能力を解放。敵を砕く力を刃に乗せろ!」
菲は次の指示を人形に与えた。頭兵は一瞬全身が赤く輝いたかと思うと、背から新たに両手が生えた。その両手で背に背負っていた2本の剣を抜く。これで、白と黒の混じった人形は3本の剣と盾を持つ事となった。
青龍刀と偃月刀を持った黒い人形は、先程の弓を持った白い人形と同じようにその武器が一瞬輝いた。しかし、その色は白ではなく黒だった。




