第933話 カケラ争奪戦 中国2(3)
「フッ!」
「シッ!」
葬武が短く息を吐き、棍を叩き付けるように振るった。影人も葬武同様に短く息を吐き、その棍をナイフで受け止めた。
「頭兵、黒兵1、黒兵2、動け。頭兵はスプリガンに、黒兵1、2はレイゼロールに向かえ。白兵2、レイゼロールに矢を放て」
葬武とスプリガンが激突した段階で、菲は自分の兵士である人形たちにそう指示を飛ばした。菲の指示を受けた頭兵(白と黒が混じった人形)と、黒兵1(青龍刀を持った人形)、黒兵2(偃月刀を持った人形)は影人たちの方向に走って向かい始め、白兵2(弓を持った人形)は、背に背負っていた矢筒から矢を取り、レイゼロールに照準を定め弓を引いた。矢は20メートルほど離れているレイゼロールに向かって真っ直ぐに飛んで行った。
「ちっ・・・・!」
影人は軽く舌打ちをすると、1度バックステップで葬武から引き、闇の鋲付きの鎖を1本呼び出し、それでレイゼロールに向かう矢を撃退した。この戦場での足止めと時間稼ぎの仕事を受けた以上、レイゼロールに手出しはさせない。
「逃がさん」
当然、葬武はバックステップをしたスプリガンに食らいつく。葬武は左手の掌底を影人の胸部へと放った。
「・・・・・・・・別に逃げちゃいないぜ」
影人はその掌底を華麗に避けると、意識を一瞬だけこちらに向かって来る3体の人形へと向けた。黒と白の混じった人形は真っ直ぐに自分の方に向かって来るが、黒い2体の人形は影人を回り込むようにこちらに向かって来ている。おそらく黒い人形たちはレイゼロールを攻撃するつもりだろう。
(面倒くせえ。戦場の全体に意識を向けなきゃならねえな、こりゃ。・・・・だがまあ、やってやるよ)
影人は黒い2体の人形をレイゼロールに向かわせないようにするために、周囲の空間から幾本かの闇色の鎖を呼び出した。その鎖は二手に分かれると、2体の黒い人形へと向かっていった。
「ちっ、黒兵1、2鎖に対応しろ」
鎖が黒兵たちに向かう光景を見た菲は、指示を変更した。黒兵たちは自身に襲い掛かって来る鎖を回避し、あるいはその武器で切り払おうとしていた。
「・・・・・!」
「随分と余裕を見せてくれる・・・・・・・・!」
一方、影人の方は黒と白の混じった人形が葬武に合流した事によって、人形と葬武から猛攻を受けていた。人形は右手の大型の青龍刀をまるで達人のように鋭く振るい、葬武は棍と体術を駆使した攻撃を影人に放ってくる。
(普通にヤバいくらい激しい攻撃だなおい! 流石にこれを身体能力の強化なしに捌くのは無理だな。・・・・・仕方ない、使うか)
影人は現在スプリガンの身体能力だけを以て、人形と葬武の攻撃を回避し凌いでいる。正直かなりギリギリだ。ゆえに、影人は身体能力の常態的強化の力を使用する事にした。ちなみに今まで使っていなかったのは、単にタイミングをアホの前髪が見失っていたというしょうもない理由しかない。どこまでも内心では締まらない奴である。
「ふん・・・・・・・」
影人が余裕ぶって鼻を鳴らすと、影人の肉体に闇色のオーラのようなものが纏われた。いつもは大体、この身体能力の常態的強化の力の名前(闇纏体化)を気に入っているという理由だけで呟くのだが、流石に今それを呟く余裕はない。鼻を鳴らすだけで限界だった。
「さて、お前らはここからの俺について来れるか?」
影人はニヤリと口角を少し上げると、先程までとは比べ物にならない速度で右手のナイフを頭兵の頭部に突き刺した。そして、その場で地面を蹴ると跳躍しそのナイフの柄を思い切り靴の底で蹴り飛ばした。その結果、頭兵と菲に呼ばれていた人形の頭部は、ナイフを基点にヒビが入り、やがてはバラバラに砕け散った。頭部を破壊された頭兵は、影人に蹴られた衝撃で後ろに倒れた。




