第931話 カケラ争奪戦 中国2(1)
「あ・・・・・・・・・?」
「・・・・・どうやら喧嘩を売られているようだな」
影人の宣言を受けた光導姫ランキング9位『軍師』こと、胡菲はその顔を疑問に染め、守護者ランキング6位『天虎』こと、練葬武はそう言葉を漏らした。
「あー、待てよこの状況・・・・・・スプリガンはレイゼロールについたって事か? ちっ、だとしたら余計面倒な事になるな・・・・・・・・・」
何かを悟ったように、菲はガリガリと左手で頭を掻いた。それとは対照的に、葬武はその身に闘志を纏わせる。
「どうでもいい。売られた喧嘩は買うだけだ。奴が強者かどうか・・・・・試してやる」
葬武はジッとスプリガンを見つめ、腰を落とし、左手を正面に、右手の棍を後ろで持った。それは葬武の戦いの構えの1つだった。
「おい待て『天虎』。こっちから手を出すな。それは私たちには許されてない」
だが、今にもスプリガンに向かって行きそうな葬武に、菲は待ったを掛けた。
「・・・・・・・何を言っている『軍師』。奴の言葉を聞いていなかったのか? 奴は俺たちの敵だ」
菲にそう言われた葬武は、意味がわからないといった感じの顔を浮かべた。その顔を見た菲は、ああこいつやっぱり分かってねえな、と呆れたような表情を浮かべた。
「いいか、前の会議の結果で、『スプリガンが攻撃して来ない限り、光導姫と守護者はスプリガンに攻撃してはならない』と決まった。向こうが攻撃して来ない限り、私たちは奴を敵と認定できない。だから待てと言ったんだ。ったく、会議の結果くらいちゃんと覚えてろってんだ」
「そんな事を覚える暇も興味もない。しかし、そんな事はやはり関係がないだろう。奴は俺たちの相手をすると言った。言質は取れている」
菲からそう説明された葬武は、菲にそう言葉を返した。だが、菲は何故かイライラとした感じの顔を浮かべた。
「だからよぉ・・・・・こういうのは体裁が大事なんだ! 私もクソ面倒と思うが、そう決まっちまってんだよ! 本当、バカはこれだから嫌なんだ・・・・・・・!」
不機嫌な声でそう言った菲。菲は続けてこう言った。
「だから、あいつが攻撃して来るまでこっちから手を出すなよ。絶対にだぞ。その代わり、あいつが攻撃してきたら好きに暴れろ」
「・・・・・面倒な。やはりそういう理屈付けは好かんな」
菲の言葉にため息を吐きながらも、葬武は渋々といった感じで構えを解いた。
(・・・・・・・・・あの『軍師』とか言う奴。雰囲気の割に真面目な奴だな。さてどうするか。俺がこのままあいつらに攻撃しなければ、あいつらは俺を攻撃して来ない。だが、その代わりレイゼロールに攻撃を仕掛けるだろうな。なら、俺の行動はやはり変わらない)
影人は内心でそんな事を一瞬考えると、右手に闇色の拳銃を創造した。そして、その拳銃を菲の方に向けると、躊躇なく引き金を引いた。
「っ!?」
菲が発砲に驚いた顔を浮かべている瞬間にも、放たれた闇色の弾丸は菲の肉体に肉薄していた。
「シッ!」
だが、弾丸が菲の肉体を貫く事はなかった。その前に菲の隣にいた葬武が、凄まじい反応速度を以て、弾丸を棍で弾いたからだ。
「っ、悪い油断してた・・・・・助かったぜ」
「気にするな。だが、奴は攻撃して来たな。ならば、ここからは好きにさせてもらうぞ」
危ない所を助けてもらった菲は、葬武に素直に感謝の言葉を述べたが、葬武は本当にどうでもよさそうに首を横に振ると、菲にそう言葉を放った。




