第925話 原初の闇人(4)
「――ん? ああ、戻って来たの。おかえり」
その人間は、近づいて来たライオンに全く恐怖を抱いていないようにそう呟くと、左手でライオンの頭を撫でた。ライオンは目を瞑りながら、気持ちが良さそうにその愛撫を受け入れた。
「ッ・・・・・・・・・・!」
その人間を見たフェリートは驚きながらも、様々な感情が胸に渦巻いたのを感じた。喜びや苦労、達成感、懐かしさ、などといった感情だ。
その人間は見た感じ、歳の頃14〜15歳くらいの少年であった。座っているが、身長は155〜160センチくらいの間だ。フェリートはその事をよく知っていた。
髪は黄色に近い金髪。ボサボサとしており、髪の長さは少し長めといった感じだ。ただ、前髪の一部が黒色に染まっている。
顔は整っているが、どこか少年らしさを残した童顔。瞳の色は美しい琥珀色。肌の色は白めだ。
服装は上半身は簡素な麻の半袖を着ていた。そこから覗く腕は、分かりにくいが意外にもしっかりと筋肉がついている。下半身は赤い紐で結ばれた黒い長ズボンを履いていた。足元はこれまた簡素なサンダルを履いていた。
全体的にのんびりとしたような、やる気がなさそうな、それでいてどこか神秘的な雰囲気をその少年は纏っていた。
「やっと・・・・・・やっと見つけましたよ・・・・」
気がつけば無意識にフェリートはそんな言葉を漏らしていた。今ライオンと戯れているその少年をフェリートは捜していたのだ。どうやら、動物に導かれるという事は本当にあったらしい。
最初に闇人となった原初の闇人にして、『十闇』第1の闇である最強の闇人。レイゼロールから最もシンプルな『破壊』の2つ名を与えられた、その少年の名は――
「ゼノ・・・・・・・!」
「ん? あれ、フェリートだ。奇遇だね、こんな所で会うなんて」
フェリートが呼んだ自身の名前に反応して、その少年のような見た目をした闇人、ゼノはフェリートの存在に気がつくと、不思議そうにそう言ったのだった。
「久しぶりだなフェリートに会うのは。大体100年振りくらいだっけ?」
「そうですね。大体それくらいになります」
日が沈みかけ、闇の到来を知らせる時刻。ゼノとフェリートは湖の近くにある、ゼノの小さなボロめのテントの前に座りながら、焚き火を囲んでいた。焚き火には湖でゼノが取った魚が2匹、木の串に刺され焼かれていた。
「取り敢えず、今日はもう動くの危ないからここに泊まっていきなよ。狭いけど、ギリギリフェリートも入れると思うし」
「いえ、それは結構です。私も野宿の用意はありますから、泊まるにしてもあなたのテントの横に泊まりますよ」
自分のテントを指差しながらそう言ったゼノに、フェリートはそう言葉を返した。フェリートも現在は旅をしている身だ。いつでも野宿する準備はあるし、服装もレイゼロールの元にいた時に来ていた執事服ではなく、マントを羽織り動きやすい格好をした旅装束だ。ゆえに問題はない。
「ふーん、そう。じゃ、それでいいよ。で、フェリートはいったい俺に何の用なの? なんか俺を捜してたって言ってたけど」
ジッと焼かれている魚をその琥珀色の瞳で見つめながら、ゼノはフェリートにそう質問した。ゼノはフェリートと会った後、魚を取らなければならなかったので、詳しい事をフェリートから聞いていなかった。




