第921話 交渉2(4)
「っ・・・・・」
「く、狂ってる・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「ふふっ、なるほどなるほど。あなたは今までその狂気を内に秘めていたのね。面白いわ」
スプリガンが見せた狂気の一端。それを見たレイゼロール、キベリア、ダークレイ、シェルディア。そして、最後の質問に答えたスプリガンに、レイゼロールはこう言葉を掛けた。
「・・・・・・・どうやら、我はお前の事を誤解していたようだ。全てが謎の冷淡なる怪人と思っていたが、狂気の炎に灼かれていた復讐者だったとはな」
「ふん。お前の俺に対するイメージなんざどうでもいい。・・・・・・さてレイゼロール、俺はお前の質問にある程度誠実に答えてやった。再三、お前の返事を聞かせてもらおうか」
演出していた狂気を引っ込め、いつも通りのスプリガンの雰囲気に戻った影人は、レイゼロールに返事を促した。
(頼むからこれで通ってくれよ。正直、これで通らなかったら後は嬢ちゃんにゴリ押ししてもらうくらいしかないからな・・・・・)
内心で影人はそう祈った。ここがある種の運命の分かれ道だ。レイゼロールがどのような形であれ、スプリガンを陣営に入れる事を認めれば最良。最終手段である、シェルディアがスプリガンを陣営に入れるゴリ押しが通れば良。それ以外は最悪だ。
「ふふっ、さあどうなるかしら。私としてはスプリガンがこちらの陣営に入れば、とても面白いと思うけど・・・・・ねえ、レイゼロール」
影人のレイゼロールサイド加入を歓迎するかのように、シェルディアがそう言った。さりげなく、レイゼロールをスプリガン加入に後押しするようなその援護の言葉に、影人は内心で感謝した。
「ゴクッ・・・・・・・・」
「・・・・・・・・どうするのよ、レイゼロール」
キベリアは緊張からか生唾を飲み込んでレイゼロールを見つめ、ダークレイはレイゼロールにそう言葉を放った。
「・・・・・・お前という者を少し知れた上で、再三答えを返そうスプリガン。我はお前を――」
スプリガン、シェルディア、キベリア、ダークレイ。この『世界』に現在いる全ての者たちの注目を集めながら、レイゼロールはその答えを――
「・・・・・・全く、本当に暑いですね」
空に輝く太陽を見上げながら、その男はポツリとそう言葉を漏らした。髪を綺麗に撫でつけた怜悧な顔の男だ。片目には特徴的な単眼鏡が掛けられていた。
「しかし、レイゼロール様からゼノを捜すように命じられて、早3ヶ月と半月ほど・・・・・・・長かったですね・・・・・」
その男――『十闇』第2の闇、『万能』のフェリートはため息を吐きながらそう呟いた。いや、全く手掛かりがない状態で、この広大に過ぎる世界から特定の1人を捜し出す事が出来たにしては、かなり早い時間である事はフェリートも分かっているが、今までの苦労を考えると、どうしても長く感じてしまう。本当に、この旅は色々とあり苦労した。まあ、この旅は主人であるレイゼロールの命令にフェリートが背いた罰であるから、苦労しなければ意味がないと言えばそうなのだが。
(・・・・・・・・ですが、この旅もようやく終わりが見えてきました。いま私の前に広がるこの広大な森・・・・この森のどこかにゼノがいるはずです)
フェリートは自身の目の前に広がる樹々生い茂る豊かな森を見つめた。フェリートが今いるのは、アフリカ大陸のとある場所だ。そして、フェリートが見つめるこの森のどこかにゼノがいる。フェリートはゼノを捜す旅の果てにここに辿り着いた。
「・・・・・では、行きますか」
様々な感慨を胸に秘めながら、旅装束に身を包んだ闇人は、深い森の中へと足を踏み入れた。
――光と闇の戦いは、再び大きく動き始めようとしていた。




