第920話 交渉2(3)
次の引っ掛かりはスプリガンの力の属性だ。神界の神々の属性は色々とあるが、基本的には光。闇を司る神はレイゼロールと、亡くなったレイゼロールの兄。それと遥か昔に葬られた忌むべき神しかいなかったはずだ。神力を譲渡されたと仮定する場合、属性も渡された神々の属性になるはず。レイゼロールはそう考えていた。
ゆえに、結局レイゼロールはスプリガンに力を与えた存在が何者なのかよく分からなかった。
実際はレイゼロールの推察は当たっていたが、神々の性格を知っていた事が逆にその推察に疑問を持たせ、更に神力の譲渡がその者の本質の属性に惹かれるという事を知らなかったために、影人にとってはプラスに働いた。まあ影人の本質が闇というのが、そもそもおかしいのだが。
「・・・・・・本当はまだ色々と聞きたい事はあるが、これが最後の質問だ。お前は我の目的を知っているのか? そしてなぜ、神である我の味方になる? ソレイユやラルバなどではなく、なぜ我なのだ?」
「・・・・・実質2つじゃねえか、それ。・・・・・・まあ、いい。面倒だが答えてやるよ」
影人は演技で少し面倒くさそうに息を吐きつつ、レイゼロールの最後の質問に回答を始めた。
「まずお前の目的はつい最近知った。そこにいる吸血鬼から聞いた。お前は自分の兄貴を蘇らせたいんだよな。そのために、失った自分の力の結晶体である黒いカケラを集めてる」
「・・・・・シェルディア、お前がスプリガンに教えたというのは事実か?」
「ええ、事実よ。戦いの時に少し盛り上がっちゃってね。あなたの目的を彼に教えてしまったわ」
「・・・・・・そうか」
まさか、スプリガンとシェルディアが繋がっているとは思っていないレイゼロールは、シェルディアのその証言を信じた。
「次になぜ神であるお前に味方するかだったな。それはまあ、お前の目的を手伝う事が1番神々に対しての復讐になるからだ。俺が今まで光導姫どもを助けたりしたのは、お前に対する当て付けだ。それは俺の目的を聞いた今なら分かるだろ。俺は神々の思惑が絡む戦場を、ただ感情のままに適当に引っ掻き回していただけだった」
考えていた嘘の設定を、影人はそれらしく話した。レイゼロールならば、先程スプリガンの目的を聞いた時に、今までのスプリガンの行動がどのような理由から行われていたか推察しているだろうが、影人は一応ここでしっかりとした答えを与えた。
「お前の目的は失敗すれば、この世界が滅びる。別に成功すりゃそれはそれでいい。その時はまた新しい復讐の方法を考えるだけだ。だが、失敗すりゃ・・・・・そいつは何よりもあの神々どもに対する復讐になる。地上世界の安定があのクソ神々どもの役割だからな」
影人はそこで今までスプリガンが見せた事のない昏い、昏い笑みを浮かべた。
「全部滅びりゃいいんだよ。全部ぶっ壊れちまえばいい。全部全部、俺の命も含めてな」
既に壊れているかのように、狂っているかのように、狂気を演出しながら影人はそう言った。




