第916話 交渉1(3)
「・・・・・・・・・貴様がどういった意図でそう言ったのかは知らん。だが、信じると思うか? お前のその言葉を」
シェルディアからそう聞かれたからではないが、レイゼロールはスプリガンにそう言葉を返した。
「そもそも、我は例えお前が本当に味方になるとしても、お前を我の陣営に入れるつもりは全くない。お前は全てが謎の怪人だ。そして、今までのお前の行動・・・・・・・・お前を信用する事など出来るはずがない」
続けられたレイゼロールの言葉は、スプリガンをはっきりと拒絶するものだった。
「・・・・・・ふん。やはり、そう言うかよ。まあ、お前のその考えはよく分かる。この状況なら普通、誰だって俺の言葉を疑うからな。だが・・・・・・・・・お前のその判断は、正直に言ってバカだぜ」
レイゼロールに拒絶された影人は、レイゼロールの心情に理解を示しながらも、しかしはっきりとそう言葉を述べた。
「・・・・・・・・・・何だと?」
「もっとはっきり言ってやろうか? お前の判断は間違いだと言ったんだよ。この際、俺の言葉が嘘か真かは一旦置いとく。お前は、ただ首を縦に振れば、俺という戦力が手に入るんだぜ? お前やそこにいるシェルディアと対等に戦った、俺という戦力がな」
嘲りの色を含んだ声で、影人は少しだけ口角を上げそう言った。さあ、ここからが正念場だ。口に出した言葉とは裏腹に、影人は内心で気を一層に引き締めた。
「っ、待て。我ばかりでなく、貴様とシェルディアが対等だと・・・・・・・・・?」
その言葉を受け、レイゼロールの表情が変わった。スプリガンがシェルディアと対等だというその言葉を、俄には信じられなかったからだ。
「ああ、その言葉は本当よレイゼロール。あなたには言ってなかったけど、私はこの前あなたに会いにいった日、結局スプリガンと戦った。その結果は、いま彼が言ったみたいに互角。引き分けよ」
スプリガンの言葉が真である事を証明するように(まあ実際は先ほども指摘したように嘘なのだが)、シェルディアがレイゼロールにそう伝えた。シェルディアは今日この瞬間まで、レイゼロールにスプリガンと戦ったという事と、その戦いの結果を伝えていなかった。その理由は、単純にシェルディアがレイゼロールにその事を伝えるのを面倒くさがったのもあるが、まあ色々とその方が都合が良かったからだ。
「っ、どういう事だシェルディア。貴様、スプリガンとの戦いで『世界』は使わなかったのか・・・・・・・・!?」
シェルディアの言葉が信じられないといった風に、レイゼロールはシェルディアにそう聞き返した。レイゼロールはシェルディアの強さを昔から知っている。シェルディアは神であるレイゼロールを超えるほどの力を持つ化け物だ。むろん、今のレイゼロールの力は完全ではない。しかし、シェルディアの強さは完全であった時のレイゼロールと比べても、ほとんど遜色ない強さだ。
ゆえに、レイゼロールは未だにその言葉が信じられなかったのだ。なまじ昔からシェルディアの強さをよく知っているがために。




