第911話 闇を助く影(2)
影人の目的。それはこの状況を演出する事だった。レイゼロールサイドの最高戦力である最上位闇人を窮地から救い出す事。要は、いつもの仕事と逆の事だ。
なぜ、そんな事をする必要があるのか。スプリガンとは影から光導姫や守護者を助ける存在ではなかったのか。もし万が一、スプリガンの正体を知る者がいれば、そう思うかもしれない。なぜ、敵を助けたのかと。
更に言うならば、影人が介入しなければ陽華と明夜の攻撃はダークレイに通っていたかもしれない。そうなれば、ダークレイはほとんど間違いなく浄化されていた。最上位闇人というレイゼロールサイドの重要な戦力を削れるチャンスを、影人は不意にしたのだ。
それはどうしても必要だったからだ。レイゼロールサイドに、いやレイゼロールに貸しを作る事が。その理由を知っているのは、影人とソレイユとシェルディアだけだ。
「いったい、何のつもりだ。スプリガン・・・・・・!」
透明化を解除したレイゼロールは、スプリガンの斜め後方に出現した。その顔にいつもの氷のような無感情さは見られない。驚きと不審さ、そのような色がレイゼロールの顔には広がっていた。
「っ、レイゼロール・・・・・!?」
「ど、どうしてここに・・・・・・!?」
「ば、ばかな・・・・レイゼロール、だと・・・・・!?」
レイゼロールが姿を現した事に、陽華と明夜、光司が驚愕した。レイゼロールに名を呼ばれた影人は、体を半分だけレイゼロールの方に向けた。
「・・・・・やっぱりいやがったか、レイゼロール。お前もロンドン以来だな」
そんなレイゼロールに、影人はいつも通りクールな怪人を演じながらそう言葉を返した。やはり、自分の考えは間違ってはいなかった。
「そんな事はどうでもいい。我がお前に聞いているのは、どういう意図でダークレイを助けたのかという事だ。我の質問に答えろ、スプリガン!」
珍しく声を荒げながらレイゼロールが再びスプリガンを問い詰める。今まで自分や部下の最上位闇人たちと何度も戦い、邪魔をしてきた謎の男スプリガン。正体不明・目的不明であり、闇の力を有し、凄まじい戦闘能力を持つ怪人。今まで光導姫や守護者を助けた事はあっても、闇人を助けるなどという事はなかった。
「・・・・・・・多少状況が変わっただけだ。俺の目的を達成するためのな。そして、それについてお前と少し話がしたい。・・・・闇の女神、レイゼロール」
「ッ・・・・!? 貴様、我の正体を・・・・・・本当に、いったいお前は何者なのだ・・・・!」
影人にそう呼ばれたレイゼロールは衝撃を受けたように一瞬息を呑んだ。スプリガンはレイゼロールの事を「闇の女神」と呼んだ。それが示すのは、スプリガンは知っているという事だ。レイゼロールが神であるという事を。
「っ、あんた・・・・・」
「知っている・・・・・? スプリガンは、レイゼロール様の正体を・・・・・・・」
「あらあら、これはまた・・・・・」
闇の女神という単語を聞いて、レイゼロール同様に驚いたのはダークレイとキベリアだけだった。2人はレイゼロールサイドだ。レイゼロールが何者であるのかは知っている。一応、シェルディアも驚いた風の表情を浮かべてはいるが、シェルディアのそれは演技だ。ゆえに真に驚いているとはいえない。
「「「っ・・・・・・・・?」」」
陽華、明夜、光司の3人はレイゼロールの正体を知らないので、その単語を聞いてもピンとはこなかった。




