第910話 闇を助く影(1)
レイゼロールよりも速く、ダークレイの元に奔った黒い影。その影は白い光の奔流に呑み込まれようとしているダークレイの前に立ち、ダークレイを左手で後方へと押した。
「え・・・・・・?」
「全てを砕け、我が拳。光を喰らえ」
意味がわからないといった感じでダークレイが呆けたような顔を浮かべる。ダークレイの前に立った黒い影――鍔の長い帽子(いわゆるハット状の)を被り、黒衣の外套をはためかせながら、真っ黒な闇に染まった拳を、白い光へと放った。真っ黒に染まった拳は、高密度の『破壊』の力を宿している事を示していた。
言葉により一撃の威力を強化された黒い拳が、浄化の力を宿した光の奔流と激突する。凄まじい力の白の光の奔流を拳1つでどうにかしようとする。本来ならば、そんな事は不可能だろう。
だがその謎の影は、不可能を嘲笑うかのように自身の拳を押し込み続け、やがては白い光の奔流を『破壊』したのだった。
「「えっ・・・・・」」
自分たちの最大浄化技である光の奔流が無効化されたという事実に、陽華と明夜は呆然とした。
「なっ・・・・」
「え、ええ・・・・・!?」
「っ・・・・!?」
「ふふ、面白くなってきたわね」
呆然としたのはダークレイや2人だけではない。レイゼロールも、キベリアも、光司も呆然としたような顔になっていた。唯一、シェルディアだけは楽しそうに笑っていた。
「あ、あんたは・・・・・・・・」
突如として自分を助けた影――いや、正確には黒衣の男の背を見つめながら、ダークレイはその目を見開いた。
「・・・・・・よう、この前ぶりだな。失礼女」
男は少し首を動かしながら、チラリとその金の瞳をダークレイに向けた。その瞳の色、その声をダークレイは知っていた。いや、ダークレイだけではない。その男の事は、この場に存在する全ての者が知っていた。
「な、何で・・・・・・何で、あなたが・・・・・」
「いったい・・・・・どうして・・・・・・・・・」
陽華と明夜が信じられないといった顔で、そう言葉を漏らす。そう2人には目の前の光景が信じられない。
なぜならば、2人の最大の浄化技を無効化し、ダークレイを助けたその人物は、今までに何度も自分たちを助けてくれた人物だったからだ。
「「スプリガン・・・・・・・・」」
陽華と明夜は、ダークレイを守るように自分たちの前に現れた黒衣の男の名を呟いた。
(・・・・・ありがとよ朝宮、月下。お前らのおかげでこの状況を演出できた。そして・・・・・・悪いな、色々と。心の内だけになっちまうが、謝罪をしておくぜ)
陽華と明夜の渾身の攻撃を拳1つで無力化したスプリガン、もとい影人は2人を見つめながら内心そう呟いた。




