第91話 シェルディアの東京観光2(3)
東京といっても郊外はそこらの都市と変わらない。特にこの辺りは明夜も言った通りけっこう田舎である。田舎といっても、ショッピングモールやコンビニなどは普通にあるし、本当の田舎に比べれば人口も多い。あくまで大都市と比べて田舎という感じだ。
陽華と明夜の案内の元、シェルディアはこの町のことを教えてもらったり、地元の人にしか分からないであろう、複雑な路地を歩いたりしながら、目的地である公園に辿り着いた。
そこは普通の公園とは少し違い、高い木が群生している公園だった。いま3人がいる場所は入り口だが、すぐ近くに公園内の地図やそれぞれの小道の名前などが記された案内板が設置されていた。
「ここだよ、シェルディアちゃん」
陽華がシェルディアに視線を合わせるため、少し膝を曲げる。改めて近くから見ると、本当にお人形さんのように可愛い少女だ。
「最初に会った時はああ言ったけど、ここ散歩する場所としてはけっこう有名なの。私には、まだシェルディアちゃんみたいな旅の楽しみ方は実感としてはわからないけど、楽しんでね」
明夜は口元を緩めて、シェルディアにそう言った。実際、明夜の母親もよくこの公園を散歩場所に選んでいた。
「改めて本当にありがとう、陽華、明夜。あなたたちの案内がなければ、私はきっと迷っていたと思うわ。本当ならお礼をしたいのだけれど、あいにく今は日本円の手持ちがなくて、ごめんなさいね」
シェルディアは感謝と謝罪の言葉を口にした。本来ならば、労力を割いて、自分を案内してくれた2人にそれ相応の報酬を支払わなければならないのだが、言葉にした通り日本円の手持ちがないのだ。
そんなシェルディアの言葉を聞いた陽華と明夜は、顔を見合わせて突然笑い声を上げた。
「あっははは! お金なんかいらないよ! 言ったでしょ? 困っている人がいるなら助けたくなるのが人間の性だって。私達が勝手に案内を買って出たんだから、気にしなくていいよ!」
「ふふふふっ、そうよ! 陽華も言った通り私達が案内したかっただけだから。シェルディアちゃんもまだ子供なんだから、そんな考え方をする必要はないわ。今はただ楽しむのがシェルディアちゃんの仕事よ」
2人は子供らしからぬ考えのシェルディアに優しくそう言った。外国の子供の考え方を2人は知らないが、陽華と明夜は少なくとも今もそんな考え方をしたことはない。だから、シェルディアが気負う必要なんてないように陽華と明夜はそのような言葉を発したのだ。
「あなたたち・・・・・・・・・・」
2人の言葉にシェルディアは、なんとも心地の良い気分になった。ああ、そうだ。だから自分は人が好きなのだ。愚かしいところもとても多い人間だが、それと同じくらい、いやそれ以上に素晴らしいところもある。それが人間だ。
「・・・・・・・・・あなたたちのような子がもっと早くいれば、あの子もあんな風にはならなかったかもしれないわね」
ポツリと独白を漏らしたシェルディアは、ほんの少し悲しいような遠い表情を浮かべる。しかし、それも一瞬のことですぐに明るい表情に戻った。
「では、もしまた会うことがあれば、今度は私が借りを返しましょう。さよなら、陽華、明夜」
「うん、またね。シェルディアちゃん!」
「道案内の時間だけだったけど、楽しかったわ。またね、シェルディアちゃん」
手を振って、2人の優しい少女たちは来た道を戻っていった。ああいった人間に出会えるから、やはり旅はいいものだ。
「またね、か。ふふっ、そうねまた会えればいいわね」
それは必ず再会するだろうという言葉だ。シェルディアから見れば、人間の人生などは一瞬で過ぎる時間ではあるが、確かにあの少女たちにはまた会いたいものだ。
「では、散歩といきましょうか」
シェルディアは気分を切り替えると、案内板に目を通し自然の豊かな公園へと足を踏み入れた。




