第909話 光と闇の想い(6)
「終わりよ・・・・! この戦い・・・・・・私の勝ちだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
ダークレイが更に闇の力を込め、一気に闇の奔流を押し込んだ。黒と白の光の対比、先ほどまでの均衡状態を5対5とするならば、今は7対3ほどまでに黒の光が白の光を飲み込んでいた。
「「ッ・・・・・・・!?」」
一気に押し込まれた陽華と明夜の顔が様々な感情を含んで歪む。自分たちはこのまま負けて死んでしまうのか。2人の心にそんな思いがよぎる。
(私たち、負けちゃうのかな・・・・死んじゃうのかな・・・・やっぱり、今の私たちじゃ最上位闇人には・・・・・・・)
(世の中そんなに甘くはないって事か・・・・いや、私たちの想いが、彼女の想いよりも・・・・・・・)
少しの諦観のようなものが、陽華と明夜の心に影を落とした。やはり、光導姫になりたての自分たちでは、ダークレイの力や想いにも・・・・・・・・
そんな2人の心を表すように、奔流が更に押し込まれる。今やその対比は8対2までになっていた。
いよいよか。そう思われたその時、
「頑張れ」
不思議な事に、陽華と明夜の耳にそんな声が聞こえて来た。男の声だった。まるで鈴の音のように、その声ははっきりと陽華と明夜の耳に入った。
「「え・・・・・・・・」」
それは幻聴かもしれなかった。なにせ、ここにいる男は光司しかいない。だが、その声は光司の声ではなかった。
だが、その声は確かに2人が聞いた事のある声だった。状況が状況だけに、思い出すという事は出来ないが。
しかし、なぜだろうか。その声は諦めかけていた2人の心に勇気を、それこそ100倍の勇気をくれた。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
陽華と明夜は叫んだ。自分たちの弱い心をなくすために。湧いてくる勇気のままに。あらん力の限り、2人は叫んだ。
「諦めない! 諦める事だけはしないんだッ! もう2度と諦めたりなんかしないッ!」
「燃え尽きるほどに燃えろ! 私たちの全ての想い! 私たちは勝つんだッ!」
再び2人の心に希望の光が灯った。その光は消えかかる前よりも遥かに強く灯っていた。
光の力は正の心の力。2人のその想いが凄まじい光の力となって奔流へと流れ込んだ。
「っ・・・・・!?」
押し込まれていた白の光が急激に黒の光を押し戻していく。一気に均衡状態に。そして、黒の光を逆に押し込んでいくほどに。ダークレイはその事実に驚いたような顔を浮かべた。
「「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」」
白の光が黒の光を圧倒する。今や白の光と黒の光の対比は8対2に逆転している。
そして遂に、その対比は9対1にまでになった。
(ああ・・・・・ここまでか。もしかしたら、もしかしたらという予感はあった。この2人が光臨をして、闇臨した私に食らい付いて来た時から・・・・)
何かを悟ったような顔でダークレイはそんな事を思った。
(私はここで負ける。結局、私は何がしたかったんだろう。光導姫になって、エイルと友達になって、そしてエイルが殺されて、ソレイユの本当の目的を知って、私は闇に堕ちた・・・・・)
負けるという確信が、ダークレイにはあった。この光を受ければ、自分は浄化される。それは長い時を生きる闇人にとっては死を意味する。そのためか、ダークレイはまるで走馬灯のように、今までの自分の記憶が内に溢れ出て来た。
(・・・・・・・・・ごめんね、エイル。あなたに誇れない私になってしまって。あなたとはきっと違う所にはなるけれど・・・・・・・・今、私もそっちの世界に逝くから・・・・・)
ダークレイは淡い笑みを浮かべた。これから自分は死ぬというのに、なぜか晴々とした気分だ。理由は本当にわからないが、心の底から晴々としている。
そして、黒の光はやがて完全に白の光に呑み込まれ始め――
(ッ、マズイ・・・・・・! ここでダークレイを失うわけには・・・・・!)
ダークレイがやられてしまうと悟ったレイゼロールは、ダークレイを助けようと動こうとした。自分ならば、まだ助けに入れるかもしれない。ダークレイは最上位闇人だ。絶対にやらせるわけにはいかない。
「ッ!?」
しかし、レイゼロールが助けに入る前に、
1条の流星のような黒い影が、ダークレイの元へと奔った。




