第902話 闇臨せし闇導姫(3)
『いやお前が言うなよ・・・・』
『あなたが言えた義理ではないと思いますが・・・・』
しかし、そう呟いた厨二前髪野郎に対し、即座にイヴとソレイユからツッコミが入った。両者とも影人の戦いを観察し、また念話が出来る都合上、影人が戦闘中にふざけているとしか思えないような事を言ったり思ったりしている事をよく知っている。ゆえに、半ば反射的にイヴとソレイユはそうツッコんでいた。
「・・・・・よくもまあそんなやり取りが出来るものね」
流石のダークレイも少しだけ呆れた表情を浮かべた。だが、ダークレイはすぐさまその顔を戦う者の顔に戻すと、更なる闇技を発動させた。
「闇技発動、ダークブレット・セカンド。闇技発動、ダークプリズムレイション」
ダークレイの両の拳に濃密な闇が纏われる。純度の高いより濃密な闇だ。そして、ダークレイが続けて新たなる闇技の名を呟くと、ダークレイの片翼全体が黒く発光し、片翼は細やかな――まるでオニキスのような美しい輝きを放ちながら――小さな光の集合体となって陽華と明夜の方に襲いかかった。そして、それと同時に一時的に翼を失ったダークレイも、2人に再び襲撃をかける。
「あんたはまだ私について来れるかしら? レッドシャイン」
当然のように超スピードで陽華に接近し、右足を引いたダークレイは陽華にそう問いかけた。
「ッ!? 明夜! 光の方をお願い!」
ダークレイが蹴りを放ったタイミングで反応した陽華は、ダークレイの蹴りを左腕で受け止めながら相棒にそう叫んだ。
「了解! 氷の礫よ、幾百にも分かれ迎撃せよ!」
陽華にそう頼まれた明夜は、自分たちに向かってくる無数の黒い光に対抗すべく、氷の礫を創造した。その数は明夜の言葉からも分かる通り、数百ほどだ。
無数の闇の光と氷の礫が空中で激突し合う。その様は見ようによっては、黒い宝石と白い宝石がキラキラとぶつかり合い弾けていくような美しい光景であった。
「シッ・・・・!」
一方、陽華とダークレイは格闘戦に移っていた。ダークレイは闇臨によって上昇した身体能力と、それを更に強化する闇技もより強まった事で、尋常ではない速さとキレのある肉体攻撃を会得していた。
「くっ・・・・!」
陽華はその攻撃に反応こそギリギリ出来ていたが、ダークレイの攻撃を受ける側にならざるを得なかった。それ程までにダークレイの攻撃は激しく正確だった。
ダークレイが左の手刀を陽華の首筋に放つ。陽華はその手刀を首を後ろに逸らして避ける。ダークレイは追撃するように右の拳を陽華の喉元に放った。陽華はその拳を左手の溜めの短い昇拳で逸らした。
だが、その対応がまずかった。
ダークレイは跳ね上がった自分の右手を利用して、陽華の髪を掴んだ。
「っ!?」
ダークレイが陽華の髪を思い切り引く。毛が丸ごと抜けるような、そこまでの強さではなかった。だが、陽華はバランスを崩してしまった。
そして、バランスを崩した陽華に、ダークレイは蹴りを放った。蹴りは陽華の腹部に直撃した。
「がっ・・・・・・!?」
その衝撃に陽華が声を漏らす。ダークレイは今度は逆に思い切り陽華の髪ごと頭を押した。その反動で陽華の体はガラ空きになった。ダークレイはそこに自身の高威力の拳を打ち込もうとした。
「ッ! 光炎よ! 燃え盛れッ!」
だが、気合いで痛みと衝撃から無理やりに立ち直った陽華は、そう叫ぶと自分の右手から炎を立ち上がらせた。その炎は近くにいるダークレイを焼き尽くさんばかりの勢いであった。
「っ!? ちっ・・・・・」
炎のせいでダークレイは拳を陽華に放つ事が出来なかった。だが、ここでチャンスを不意にするダークレイではない。
「闇技解除。そして闇技発動、ダークウインド」
ダークレイは翼を無数の闇の光に変えていた闇技を解除した。2秒後、闇の光がダークレイの左の背中に戻っていき、再び機械的な翼がダークレイに顕現する。
そして、ダークレイは新たな闇技を発動させる。ダークレイの元に再び顕現した片翼の全体に黒いエネルギーが宿る。ダークレイはそのエネルギーが宿った翼を思い切り炎に向かってはためかせた。




