第897話 覚醒する光(3)
「水氷の波動!」
明夜がそう言うと、明夜の左手を基点に魔法陣のようなものが展開し、そこから凄まじい勢いの水と氷が放たれた。
(くっ、近づけない・・・・・・!)
水の飛沫と雹の混じった凍てつく風が、ダークレイを阻む。あと少しでこの拳と脚が届くというのに。
「明夜はやらせないよッ!」
明夜がダークレイを迎撃している内に、こちらに向かっていた陽華がダークレイの背面から近づき、ダークレイの服を掴んだ。そして、陽華はダークレイを思い切り空に投げ飛ばした。
「っ、形態変化、杖! 闇技発動、ダークイレイザー! 消し炭になりなさいッ!」
陽華に投げ飛ばされたダークレイは、空中で自身の形態を変化させ、陽華と明夜のいる場所に向かって杖を構え、その先端から闇色のレーザーを放った。風音の龍神の息吹を迎撃した時ほどではないが、それなりの太さだ。
「陽華! 迎撃は私に任せなさい!」
「大丈夫だよ明夜! 私も炎をより操れるようになったから! だから2人で!」
「分かった! なら私に合わせて! 水氷よ、荒れ狂う激流の奔流となりて全てを穿て!」
「光炎よ! 渦巻く灼熱の奔流となって全てを焼き尽くせ!」
明夜は杖を、陽華は自分の両手を闇のレーザーに向かってかざし、そう言葉を叫んだ。
すると、明夜の杖の先からは水と氷が螺旋を描いた奔流が、陽華の両手の先からは光り輝く炎の奔流が放たれた。水氷と光炎の奔流は、闇色のレーザーと衝突した。
その結果、衝突した空間を中心として凄まじい衝撃波が巻き起こった。ダークレイ、陽華と明夜は衝撃の風にその体を煽られる。
「くっ・・・・・!」
特に空中にいたダークレイは踏ん張る事も出来ずにその煽りをモロに受けた。衝撃波を受けたダークレイは地上に受け身を取れずに叩きつけられた。
「陽華チャンスよ! デカイ一撃入れてやりなさい!」
「りょーかいッ!」
幼馴染の言葉に頷きながら、陽華は左手で右腕を掴み正面に向けた。手の甲側をダークレイの方に向けるような、手の甲を強調するような、そんな構えだ。
「光炎よ! 我が右手に纏え! 全てを浄化し焼き尽くす程に、燃え狂え!」
陽華がそう唱えると、陽華のガントレットに光る炎が纏われた。その炎の大きさは、光臨前に手に纏っていた炎の大きさを遥かに超えるものだった。
「そして光炎よ! 我が手に宿れッ!」
陽華が続けてそう叫ぶと、右手のガントレットの甲に装着されていた円形の装置のようなものが、カシャンと音を立てて開いた。開いた装置の中には透明な玉のようなものが内蔵されていた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
陽華が裂帛の気合いの込もった声を上げながら、右の拳を握りしめる。すると、陽華の右手に纏われていた炎が透明の玉のようなものに渦巻くように吸収され始めた。
宝玉のように丸い無色な玉を、赤い炎のような色が染め上げていく。炎を吸って。そして色の無い玉が、完全な真紅の宝玉と化した時、ガントレットにも変化が訪れた。陽華の装着しているガントレットの色は鈍い銀色なのだが(これは光臨前も変わらなかった)、無色の玉が赤い宝玉へと変化した瞬間に、ガントレットの色も変わったのだ。鈍い銀色から透明感のある、クリスタルレッドに。
最後に、紅玉の周りに太陽のように光り輝く輪のようなものが出現し、陽華はダークレイの方に向かって駆け出した。




