第894話 諦めない心(5)
「「汝の闇を我らが光に導く!」」
そして、陽華と明夜はここを最後のチャンスと捉え、ダークレイに勝負をかけた。
「逆巻く炎を光に変えて――」
陽華が祈るように右手を前に突き出す。
「神秘の水を光に変えて――」
陽華に続くように明夜も左手を前方に突き出す。
陽華の両手のガントレットと明夜の杖が突如、眩い光に変わった。陽華の右手と明夜の左手が重なる。すると光は吸い込まれるように二人の手に宿った。
「「浄化の光よ! 行っっっっっっっっっっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」」
陽華と明夜の最大浄化技。その凄まじい光の奔流がダークレイへと向かった。これが決まれば、2人の逆転勝利が決まる。
「ッ、腹立たしい光・・・・・! そんな光を私に向けるなァァァァァァァァァァァァァッ!」
自分に向かって来る光の奔流に、ダークレイは怒りと嫌悪の混じった声でそう叫んだ。そして両手の拳を強く握り、自分の闇の力を高めた。
「最大闇技発動! 全てを砕け! ダークレイジング・・・・バーストナックルッ!」
ダークレイの両手の指貫グローブに刻まれた紋章が一際強く輝きを放つと、ダークレイの右拳を中心にグローブに刻まれた紋章と同じものが魔法陣のように展開した。ダークレイが1度拳を開いて再び拳を握り返すと、その魔法陣は吸い込まれるようにダークレイの拳に溶けていった。
すると、ダークレイの右の拳に凄まじい力が集約された。ダークレイは黒と紫の混じった光を纏った拳を、陽華と明夜の放った光の奔流にぶつけた。
「こんな光で、私の絶望は砕けないッ!」
ダークレイが自身の絶望の記憶を以て闇の力を燃やす。その力を燃料にする事で、ダークレイの纏う闇の光は更に昏い輝きを増す。そして遂には、
「はァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」
ダークレイは陽華と明夜の最大浄化技を、その拳で弾いたのだった。
「「ッ!?」」
自分たちの最大限の攻撃が通らなかった陽華と明夜が険しい表情を浮かべる。光となっていた陽華のガントレットと明夜の杖は2人の元へと戻っていった。
「あんたらの負けよッ!」
ダークレイが陽華と明夜にそう言いながら近付こうとする。やはり、勝利はダークレイのものか。
「私たちはまだ負けてないッ! みんなを守るんだ! 助けるんだ! そして、あの人に追いつくためにも!」
「死んでも負けないわよ! 私たちの思いは、最後の最後まで輝き続ける! そうでしょ陽華!?」
「うん明夜! 太陽のように――!」
「月のように――!」
「「私たちの思いは輝く!!」」
2人が決意を込めてそう言った直後、不思議な事が起こった。陽華に赤いオーラ、明夜に青いオーラのようなものが纏われたのだ。陽華のオーラは揺らめく炎のように熱く、明夜のオーラは揺らめく水のように澄んでいた。
「なっ!? その輝きは・・・・!?」
ダークレイが思わず立ち止まってそんな声を漏らす。それ程までにダークレイは驚いたのだ。ダークレイはその輝きを知っていたから。
「明夜、何か力が湧いて来るよ! あと言葉も!」
「私もよ、陽華。これはアレね。行くわよ!」
「うん!」
陽華と明夜はお互いに頷き合うと、自分の内側に浮かんでくる言葉を世界に放った。
「「我は光を臨む。力の全てを解放し、闇を浄化する力を!」」
陽華と明夜のオーラが激しく揺めき、2人に光が集まっていく。
それは一部の光導姫のみが到達できるステージ。光導姫としての全ての力を解放し、一定時間だけ自身の力を爆発的に上昇させる業。どこまでも強い、正の思いが鍵となるその業の名は――
「「光臨!」」
そして2人がその業の名を叫んだ直後、陽華と明夜は光り輝いた。
その輝きは、太陽のようであり、また月のようでもあった。




