第892話 諦めない心(3)
だがそのすぐ後に、
「ふっ・・・・・・・・!」
「かはっ・・・・・・・・!?」
ダークレイの闇纏う右の拳が、光司の鳩尾を穿った。光司はその拳の余りの威力に、思わずその場に崩れ落ちた。意識が暗闇に持っていかれそうになるが、光司は剣を握る手に思い切り力を入れ、歯を食いしばって、何とか意識を保つ事に成功した。
「ま、まだ・・・・・まだだ・・・・・! お、俺がっ・・・・ここで、倒れる・・・・・・・・わけにはッ・・・・・!」
「・・・・・まだ意識があるの。やっぱり、守護者はタフね。でも、邪魔よ」
ダークレイは少し呆れたような目を崩れ落ちた光司に向けると、左足で光司を思い切り蹴飛ばした。光司は声を上げる間もなく、15メートルほど先に飛ばされた。
「ごほっげほっ・・・・・! く、くそっ・・・・・・体が、動かない・・・・」
光司はどうにかして立ち上がろうとしたが、体が言う事を聞かなかった。光司は意識こそ何とか失わなかったが、体は既に限界に達していた。
「やめときなさい。意識を保ってるだけでも奇跡みたいなものよ、あなた。動くと下手をすれば死ぬかもしれないわよ」
ダークレイは蹴飛ばした光司に一応そう忠告の言葉を与えた。別に深い意味はない。ただ、また起き上がって来ても面倒だし、殺すのは気が乗らないからそう言っただけだ。
「さて・・・・・・・・これで邪魔者は全て無力化した。これであんた達を守る者も、助けてくれる者もいなくなったわ」
ダークレイは後方にいる明夜と、その前にいる陽華にそう言葉を投げかけた。
「あんた達はこれから死ぬ。私が殺す。あんた達には悪いけど、これは決定事項よ。でも、私にいたぶる趣味はないの。だから、必要最低限の攻撃で逝かせてあげるわ、後輩」
「「ッ・・・・・・!?」」
何でもないようにそう言ったダークレイ。陽華と明夜はその言葉を聞いて、心の底からゾッとした。2人は途端に尋常ではない恐怖を感じた。
「・・・・・陽華、立てる?」
恐怖からくる震えで杖を握る手が小刻みに揺れる。だが、明夜は必死にその震えを抑えようとしながら、倒れている親友の元まで歩きそう聞いた。
「う、うん・・・・・な、何とか・・・・」
ダークレイの連撃を受けて地面に伏していた陽華は、痛む体を半ば無理やりに引き起こし立ち上がった。陽華の体も小刻みに揺れていた。その震えは、ダメージによる震えでもあり、明夜と同じく恐怖から来る震えであった。
「ねえ明夜・・・・私たち、負けてここで死んじゃうのかな・・・・・・・・?」
「さあ・・・・でも、このままだと高確率でそうなりそうね・・・・・・・」
「ははっ、そうだよね・・・・今思えば、こんな時はいつも周りの人達に、あの人に・・・・・・スプリガンに助けてもらってたよね。私たち、助けてもらってばっかりだった・・・・」
「・・・・・そうね。私たちは運が良かった。それだけで今まで生き残って来たのかもしれない。・・・・夏の研修で多少は強くなったつもりだけど、それでも実力者たちには届かない」
「悔しいな・・・・・私たちの頑張りは、届かなかった・・・・・」
「・・・・・・・・・・なに、あんた達? 遠回しな命乞いでもしてるつもり? そうだとしても、逃してなんかあげないわよ」
陽華と明夜の会話を聞いていたダークレイは、どこか苛立ったように言葉を放った。力不足を嘆くようなその態度が、ダークレイを苛立たせた。




