第891話 諦めない心(2)
「・・・・・・・・まあいいわ。楽に斃せるならそれに越した事はないし」
ボソリとそう呟いたダークレイ。ダークレイは既に陽華の攻撃を完全に見切っていた。少しの間回避に徹していたのは、動きを完全に見極めるためと陽華のスタミナを無駄に削ってやろうと考えていたからだ。
「はぁ、はぁ・・・・・! この、何でッ・・・・!」
そして、ダークレイのその目的はどちらも達成している。陽華は息切れをしてスタミナが明確に先ほどより削れている。ダークレイは自分の両手の拳を握りながら反撃に転じた。
「当たり前でしょ、そんな攻撃いくらやっても私には当たらないわ。連撃って言うのは、こうやるのよ」
ダークレイは陽華の右の拳を避け、そのガントレットに覆われている腕を自分の左手で掴んだ。燃えているのは拳の部分だけで腕の部分は燃えていない。ゆえに、掴む事は可能だ。ダークレイは軽く左手を引いて、陽華の右腕を伸ばし切り、体勢を崩させた。
「なっ・・・・・!?」
ダークレイの完璧な崩しに陽華は驚いたような表情を浮かべた。そんな陽華の表情は気にもせず、ダークレイは右拳を陽華の腹部にぶつけた。先程風音にも浴びせた、いわゆる腹パンと呼ばれるパンチだ。
「ごほっ・・・・!?」
気が飛びそうな衝撃が陽華を襲う。それは陽華が人生で初めて味わった衝撃と痛みだった。
「まだまだよ」
「ぶっ・・・・!?」
ダークレイは間髪入れずに、陽華の腹部を殴った拳で陽華の右頬を殴った。その次に右の肘鉄を陽華の額に叩き込み、陽華の右腕を掴んでいた左手を離した。もう掴んでいなくとも大丈夫とダークレイは判断した。
「よ、陽華ッ!? くっ、やめなさい! 氷の龍よ、陽華を助けてッ!」
ダークレイの闇の光によって左腕を負傷していた明夜が、痛みを堪えながら魔法を行使した。明夜が右腕で杖を乱雑に振るうと、明夜の前に氷の龍が出現した。
「あ、朝宮さん! き、君を絶対にやらせはしない・・・・・・!」
ダークレイに蹴り飛ばされた光司も、陽華の危機に気がつき、右手で剣を握りながら陽華の元へと駆けた。
「形態変化、杖。闇技発動、ダークブレイザー」
ダークレイは明夜の攻撃と光司が再び向かって来る事を察知し、一瞬だけ自身の形態を変化させた。右手に黒い杖を持ったダークレイは杖の底、槍などでは石突と呼ばれる部分で陽華の鳩尾を突き、闇の光を5条放った。ついでとばかりにダークレイに鳩尾を突かれた陽華は「がっ・・・・」と声を漏らし、後方によろける。そして、明夜の氷の龍はダークレイの闇の光によって砕かれてしまった。
「・・・・あんたもそろそろ退場してもらうわ。形態変化、拳。闇技発動、ダークブレット」
「絶対に、俺が・・・・・・・守るんだッ!」
氷の龍を無力化したダークレイは自身の形態を近接形態に戻し、右拳だけ闇を纏わせた。わざわざ両手を使う必要はないと考えたからだ。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」
「眠れ、守護者・・・・!」
光司が力強く叫びながら右手の剣を右袈裟に振るった。ダークレイも自分の右手を引き、渾身の一撃を光司に与えようとした。
「っ・・・・・・・・!?」
光司の魂の斬撃は、ここに来て今までで1番の鋭さを持っていた。ダークレイはその斬撃を完璧には避け切る事が出来なかった。『十闇』第3の闇の実力者は、手負いの守護者によって左の肩口を浅く斬り裂かれてしまった。黒い血が少しだけ宙に飛び散った。




