第890話 諦めない心(1)
「ぐっ・・・・・・・・!?」
ダークレイの必殺の蹴りを左腕で受け止めた光司は、自分の左腕に奔った激痛に顔を顰めた。ダークレイの強化された蹴りを受けるには、光司の片腕では足りなかったようだ。
「香乃宮くん!?」
自分を庇ってくれた光司に、陽華が反射的に光司の名を呼んだ。
「これを庇うか・・・・・・・・・どうやら、あなたは優秀な守護者みたいね。でも、その左腕はもう使えないわよ」
「た、たかが左腕を負傷しただけだ・・・・! 俺を舐めるなよ、闇人ッ!」
ダークレイからそんな指摘を受けた光司は、左腕の激痛を何とか我慢しながら、気力を振り絞って右手の剣を右の逆袈裟に振るった。だが、ダークレイは何でもないかのようにその斬撃を避けた。
「香乃宮くんごめん私のせいでッ! わ、私・・・・・」
「だ、大丈夫。気にしないで・・・・それよりも今は戦いに集中するんだ、朝宮さん。他の事に気を取られちゃいけない。何が起きても、戦いにだけ集中するんだ・・・・・!」
震える声で自分にそう声を掛けて来た陽華に光司は笑顔を無理やり浮かべた。そして陽華にそう忠告を与えた。
「ッ・・・・・・・・う、うん分かった!」
光司の忠告を受け、揺らいでいた精神を何とか通常の状態に戻した陽華は力強く頷いた。
「・・・・言う事は立派だけど、それを言った張本人が果たしてこれから戦いだけに集中できるかしらね」
ダークレイは冷め切った目で光司を見つめながら、光司に向かって左の蹴りを放った。左腕の激痛によって反応が鈍った光司はダークレイの縦蹴りを腹部にモロに受けてしまった。
「かはっ・・・・・!」
闇を纏っていない左足での蹴りなので、内臓が破裂するほどの衝撃ではない。しかし、それでも近接形態のダークレイの蹴りはかなりの威力を持っており、光司は後方へと蹴り飛ばされてしまった。
「こ――」
「あんた、今の守護者の言葉もう忘れたの?」
陽華が蹴り飛ばされた光司の名を呼ぼうとすると、ダークレイがどこか呆れたような声でそう呟きながら陽華に接近し左拳を放った。
「ッ!?」
陽華は何とかダークレイの左拳に反応し、自身の右腕を使ってダークレイの左拳の軌道を逸らした。
「ふん・・・・」
ダークレイは間髪入れずに右の肘鉄を陽華の顔面に放った。陽華はその肘鉄を顔を逸らして回避する。
「このッ!」
陽華は負けじとダークレイに反撃を開始した。燃える両の拳でダークレイに向かって連撃の嵐を放った。
「温い連撃ね。そんなんじゃ、いつまで経っても私には当たらないわよ」
ダークレイはつまらなさそうに陽華の拳を避け続けた。先ほどは蹴りを交えて連撃をしてきたのに、動きが単調になっている。怒りからかは知らないが冷静さを失っている。
(全く、レイゼロールの奴はこの程度の光導姫たちから何を感じ取ったのかしら。今のところ、まだまだ未熟な光導姫という印象しか受けないけど)
陽華の攻撃を避けながら、ダークレイはそんな事を思った。直接戦って分かったが、いま自分に必死に拳で攻撃している光導姫も、後方から水と氷の魔法を放って来ていた光導姫も大した事はない。よく見積もって中の下くらいだ。
レイゼロールの話では今回のターゲットである2人、光導姫レッドシャインとブルーシャインはまだ成長途中の光導姫という事だったので、自分がそう思うのは当然かもしれない。だが、それでもレイゼロールにそう感じさせた片鱗のようなものを全くといっていいほどに感じない。ダークレイはそこに疑問のようなものを抱いていた。




