第89話 シェルディアの東京観光2(1)
「んー! よかったわ! 次はどこに行こうかしら」
スカイツリーからの景色を堪能したシェルディアは、次はどこに行こうかと雑誌を開いていた。印をつけている箇所はまだまだあるが、さすがのシェルディアとはいえ、1日に回れる場所は限られている。
「浅草にも行きたいし、このタピオカとかいう飲み物も飲んでみたいし、どうしましょう?」
うーん、と唸り声を上げてシェルディアは悩んだ。1番気になっていたスカイツリーは訪れたが、次に訪れたい場所となると五十歩百歩で、一様に興味が分散している。
そんな時、少しきつめの風が吹いた。その風でパラパラと雑誌がめくれていく。開かれたページは終わりがけのページ。そこに書かれていたのは、自然や公園といった他のページよりは味気ないと感じる場所についての特集だった。
「あら・・・・・・・・なかなかいいわね」
しかし、シェルディアそのページに興味を引かれた。ちょうど人が多すぎると感じていたところだ。早くはあるが、少し自然などに触れゆったりとした観光をしてもいいかもしれない。
「よし、ここにしましょう」
次に訪れる先を決めたシェルディアは影に沈んだ。
一瞬の後、シェルディアは再び影から浮上する。しかし、そこはどことも知れぬ町中だった。
「あら? 座標が狂ったかしら?」
疑問を覚えながらも、シェルディアは周囲を見渡す。周囲には住宅街やコンビニエンスストアなどがあるばかりだ。
「おかしいわねぇ・・・・・・・」
基本的に自分が転移をミスするということはない。あるとすれば、転移中に何者かの介入を受けた場合や、転移する土地かその周辺の力の流れがおかしいかだ。
だが、シェルディアは前者ならまだしも後者は自分では探れない。疑問ではあるが、ここで悩んでいても始まらない。
「・・・・・・仕方ないわね、のんびり歩いていきましょうか」
おそらくではあるが、転移場所がずれただけで目的地までそう遠くはないだろう。こういう場合は、もう一度目的地を設定して転移しようとしても、必ずズレが発生してしまう。
シェルディアは目的地の場所もわからないまま歩き始めた。
だが、シェルディアはこの場所を訪れるのは初めてなので目的地の方角もわからない。分かっているのは、目的地がおそらく近いことくらいだ。
10分ほどだろうか。眩しすぎる陽光に目を細め、日傘を差しながら歩いていると、少女が2人正面から歩いていくるのが見えた。
「もし、そこのお2人さん。少し道を尋ねたいのだけれど」
上品な口調でシェルディアは、その少女たちを呼び止めた。2人そろって同じ服――確か制服という日本の学生が着用するものだったと記憶しているが――を着ている少女たちはキョトンとした顔でシェルディアを見つめた。
「道? 私達にわかる範囲でいいなら教えてあげるよ」
「どこに行きたいの?」
少女たちは、突然呼び止められたことには驚いていたようだが、シェルディアの言葉を聞くと、優しげな表情を浮かべながらそう言った。
「ありがとう、ここなのだけど」
シェルディアは雑誌を広げて目的の場所を2人に見せた。自然に満ちあふれた公園だ。
「あー、ここかぁ。ちょうど反対の場所だね」
「しかもここに行くのはけっこう道が入り組んでるし、わかりにくいのよね」
「うんうん。どう説明したらいいかな・・・・・・・」
どうやら少女たちはここを知っているらしく、道もわかるようだったが、どのように説明するか悩んでいる様子だった。
「・・・・・・・あ、そうだ! 私達が案内してあげるよ! いい?」
「ええ。私達が説明してもきっとわかりにくいだろうし。そうしましょ」
少女たちは案内を買って出てくれた。その申し出にシェルディアは「ありがとう」と心の底からの感謝を少女たちに述べる。
「私はシェルディアというわ。観光とか色々な理由で東京に来たのだけれど、なにぶん慣れない土地だから、案内してもらえるのは本当に助かるわ」
「全然、気にしないでシェルディアちゃん。困っている人がいるなら助けたくなるのが人の性だよ。あ、私は朝宮陽華。高校生だよ」
「私は月下明夜。少しの間だけどよろしくね、シェルディアちゃん」
いつものことであるが、この少女たちも自分のことを年下の子供と思っているようだ。まあ、慣れているし言う意味もないのでシェルディアは何も言わなかったが。
「よろしく、陽華に明夜」
こうしてシェルディアは2人と共に目的地の公園を目指すことになった。




