第889話 危機到来(4)
「朝宮さんは僕と一緒に前衛を! 月下さんは後衛で援護を頼む! 行くよ朝宮さん!」
「うん!」
「分かった。死ぬ気で援護するわ!」
3人の中で1番実戦慣れしている光司が、陽華と明夜にそう指示した。陽華と明夜は光司の言葉に了解の言葉を返した。
「朝宮さん! 僕が君の動きに合わせるから、君は自由に動いて!」
「ッ! 分かった! はぁぁぁぁぁッ!」
光司の追加の指示に頷いた陽華は、ダークレイに向かって突撃した。陽華は近距離型の光導姫だ。どちらにせよ距離を詰めない事には始まらない。陽華はガントレットを装着した燃える拳を、ダークレイに向かって突き出した。
「闇技発動、ダークアンチェイン」
向かって来た陽華に対応するべく、ダークレイは自分の身体強化の技をバランス型にした。そして陽華の燃える右拳を華麗に避けた。
「浄化の炎を宿した拳・・・・・・面倒ね。でも、まだまだ体捌きが甘いわ」
「っ!?」
ダークレイは陽華の拳を避けると、自身の左足で陽華の右足を払った。急な足元への攻撃に陽華は反応できず、体をよろけさせた。その隙に、ダークレイは闇纏う拳を陽華の頭部に放とうとした。
「やらせない!」
だが、陽華と一緒に突撃していた光司がダークレイの攻撃を阻止すべく剣を振るった。ダークレイはその攻撃を回避するため、陽華への攻撃を中止した。
「ちっ・・・・・」
ダークレイから思わず舌打ちが漏れる。ダークレイは自身の傷を回復する技を有していない。ゆえに血を流す恐れのある斬撃は出来るだけ回避しなければならない。闇人が血を流すという事は、それが弱体化に直接繋がるからだ。
「氷の蔓よ、伸びろ!」
明夜が杖を振るい、虚空から氷の蔓を複数本呼び出す。氷の蔓はダークレイを捉えるべく、ダークレイの方に向かっていった。
「私の体捌きが甘くてもッ! 私たちには連携がある!」
体勢を整えた陽華はダークレイに拳打と蹴りを混じらせた連撃を放った。陽華の連撃に合わせるように、光司も剣をダークレイに振るうが、その斬撃は陽華の攻撃の邪魔にならないタイミングで行われていた。流石は守護者ランキング10位の実力者といったところか。
「ふん、圧倒的実力差の前ではそんなものは無意味よ。それを私が証明してあげるわ、後輩」
しかし、身体を強化しているダークレイはまだ余裕があるように、陽華の連撃と光司の斬撃を紙一重のところで回避し続けた。2人分の攻撃でも回避に徹すれば当たらないとダークレイは当然の事のように考えていた。
「形態変化、杖。闇技発動、ダークブレイザー」
ダークレイは右足を踏み込んで後ろに飛び退きながら、グローブの形態を変化させた。黒い杖を右手で握ったダークレイは杖を無造作に振るった。すると、闇の光が10条ほど虚空から出現し、その闇の光は明夜が放った氷の蔓を蒸発させた。そして闇の光はそのまま明夜たちを襲う。
「あっぶないわね・・・・・!」
「っ・・・・・!」
「くっ・・・・・・・!」
遠距離型で身体能力が陽華ほどではない明夜は本当にギリギリで、陽華と光司は少し余裕を持ってその闇の光の攻撃を回避した。
「闇の光よ我が敵を討て」
ダークレイは続けて1条の闇の光を光線として放った。狙いは反応が前衛の2人より遅かった明夜だ。必死に先の闇の光を避けていた明夜は、追加で放たれた闇の光を完全に避け切る事は出来ずに、左腕に闇の光を掠らせてしまった。
「ッ〜!?」
明夜が声にならない悲鳴をあげる。闇の光が掠った明夜の左腕は、コスチュームが一部焼き切れ、その下に見える皮膚も火傷のようになっており、肉がほんの少しだけ抉れていた。
「ッ!? 明夜!?」
明夜がダメージを受けた事に驚いた陽華が一瞬意識を明夜の方へと向けた。陽華の気持ちは普通ならば分かる。幼馴染であり親友がダメージを受けたのだ。数ヶ月前までただの少女であった陽華からしてみれば、その反応は仕方のないものであった。
「形態変化、拳。闇技発動、ダークアンチェイン・スピードモード」
「ッ!? ダメだ朝宮さん! 意識をそっちに向けてはッ!」
しかし、その反応がダークレイに絶大なチャンスを与えてしまった。その事に気がついた光司が陽華にそう声を飛ばしたが、時は既に遅かった。ダークレイは自分の形態を切り替えると、風音を倒した時と同様にスピード特化の状態で陽華に一瞬で距離を詰めた。
「あ・・・・・」
「・・・・バカね、あんた。私たちがやってるのは戦いよ。油断と隙は、そのまま死に繋がる。それが現実ってものよ。闇技発動、ダークシュート」
呆けたような声を出す陽華に、ダークレイはまるで今から訪れる現実のように冷めた声でそう言うと、闇を纏わせた右足で陽華の左側頭部を蹴り砕こうとした。
(ッ! こいつはいよいよマズイか・・・・・!)
戦いを観察していた影人が介入しようと動こうとした。あの蹴りを喰らうのはダメだ。アレをマトモにもらえば陽華は即死するだろう。風音の時はダークレイが風音を殺そうとしなかったので結局は介入しなかったが、あれは確実に陽華を殺そうとしている攻撃だ。
だが、結果的に影人が介入する事にはならなかった。
「やらせるものかッ!」
なぜならば、それよりも速く光司が陽華を守るようにダークレイの蹴りを左腕で受け止めたからだ。




