第888話 危機到来(3)
『影人、この状況は極めて危険です。なので、私はここに「提督」を追加で派遣しようと思っています。陽華や明夜、それにあの守護者を信頼していないわけではありませんが・・・・・・最上位闇人であるシオンと直接戦えば、高確率で敗北します』
影人がそんな事を考えていると、同じ事を考えていたソレイユがそんな事を言ってきた。ソレイユはダークレイが施した転移禁止の力の効果が、一方向のみを阻害するものだという事を感覚で理解していた。つまり、既にこの場にいる陽華や明夜、風音はここから違う場所に転移させる事は出来ないが、違う場所からこの場に他の人物を転移させる事は可能だという事だ。
普通ならば正しい判断だ。しかし、影人はソレイユの言葉にこう言葉を返した。
(たぶんそれは意味がないと思うぜソレイユ。この戦いを観察してるのは俺たちだけじゃない。嬢ちゃんと証人役のキベリア。それと・・・・・レイゼロールもいるはずだ)
『ッ、レールがですか?』
(ああ。たぶん俺みたいに気配と姿を消してな。嬢ちゃんみたいに『世界』の応用で認識を阻害してはいないと思うがな)
影人がなぜそう思っているのか疑問に思っているだろうソレイユに、影人は自分がそう考える理由を伝えた。
(まず、この場や他の場所に最上位の闇人が出現していない事。これが1つの根拠だ。レイゼロールはバカじゃない。光と闇が激突する戦場には、俺が出現する可能性をちゃんと分かっているはずだ。そして、俺が現れれば朝宮と月下は高確率で殺せない。今のところ、俺は闇人を攻撃してる回数の方が多いからな)
スプリガンは正体不明・目的不明の怪人。光導姫や守護者を攻撃した事はあるとはいえ、その矛はレイゼロールサイドに向けられている事が多い。その事はレイゼロールも分かっているはずだ。
(そのレイゼロールが、俺が現れた時のケアを全くしていない、なんていうのは俺には考えられない。なら残る可能性は、俺が現れた時のそのケア役をレイゼロール自身がしてるって事だ。レイゼロールなら、確実に俺を止められる。その間に、ダークレイが朝宮と月下を殺す。それがケアとしてのプランだろうぜ)
だから、影人はレイゼロールが自分と同じようにこの戦いを近くで観察していると考えるのだ。それならば、影人が乱入してもレイゼロール自身が対処できるから。
(で、当然レイゼロールのそのケアは他の光導姫や守護者が来ても効くわけだ。レイゼロールがそいつらの相手をする。で、そこに俺が現れたらレイゼロールが俺の相手をして、追加された光導姫や守護者には大量の造兵をぶつけて時間稼ぎをする。俺からすりゃ大した事はないが、あの造兵どもは普通に強いからな。時間稼ぎには充分利用できるだろ。その間ダークレイは・・・・ま、さっき言った通りの展開だな)
『なるほど・・・・・・・・・確かにあなたのその推測には説得力がありますね。あなたの言う通り、例え「提督」を派遣しても状況が改善しない可能性がある』
影人の説明を聞いたソレイユは、その推測に納得した様子だった。
『ですが、ならどうすればいいというのですか? このままではあの子達は・・・・・』
しかし、それはソレイユからしてみれば最悪な推測であった。
(・・・・・・・・・・見守るしかねえな。あいつらが奇跡を起こす事を願って。今はそれしか出来ねえ・・・・)
そしてソレイユの言葉に、影人はそう言葉を返した。




