第886話 危機到来(1)
「ッ!? 風音さん!?」
「嘘でしょ、風音さんが負けた・・・・・・・・・?」
ダークレイの一撃を腹部に受け、気を失い地面に伏した風音。その光景を見ていた陽華と明夜は、信じられないといった感じの表情を浮かべた。
「・・・・・・あんたは強かったけど、常にあの2人の事を気にしていた。それが、私に負けた原因よ」
気を失い変身が解けている風音に、ダークレイはポツリとそんな言葉を送った。この光導姫は本当はこの程度の攻防で倒れるような者ではなかったはずだ。だが、この光導姫は完全に自分との戦いに集中できていなかった。
『殺せ』
「っ・・・・・!」
ダークレイが風音を見下ろしていると、そんな思念がダークレイの内側に響いた。この一方的な思念の伝播は近くでこの戦いを観察しているレイゼロールのものだ。レイゼロールは、闇人と自分の見えない経路のようなものを通して一方通行的に思念を送る事が出来るのだ。
『その女はおそらく現代の光導十姫の1人だ。殺せばソレイユ側の戦力を大きく削る事が出来る。だから、殺せ』
急かすようにまたレイゼロールの思念がダークレイの内側に流れ込んでくる。ダークレイはその思念を不快に思い、倒れている風音を抱き起こした。
「あんたら、しっかり受け止めなさいよ」
そして、ダークレイは風音を陽華と明夜の方に向かって投げた。ダークレイの身体能力とパワーは人間を遥かに超えている。風音は宙を舞った。
「え!? ちょ、まっ!」
「よ、陽華! 風音さん受け止めて! 絶対よ!?」
「わ、分かった!」
意味の分からない事態に戸惑いながらも、陽華と明夜はそう言葉を交わし合い、陽華が落下してくる風音を何とか受け止めた。光導姫形態だったので、風音を落とす事はなかった。
(ッ・・・・・ダークレイ、やはり素直に扱う事は難しいか・・・・)
その光景を見ていたレイゼロールは、内心でそんな事を思った。ダークレイは、あの2人を殺すという命令には戦力としての問題と溜まっていた鬱屈から了承したが、あの光導姫を殺さなかったのは、自分からの追加の命令に苛立ったからだろう。つまり、この行為はレイゼロールに対する意趣返しだ。そんな命令にまで従う義理はないと。
「な、何のつもりなの!?」
「別に・・・・・ただ、あいつの声が癪に障っただけよ」
その事を知らない陽華がダークレイにそう疑問の声を飛ばした。ダークレイは陽華の疑問にそう答えただけだった。
「それより、次はあんたらの番よ。私の目的はあなた達2人。これで、あんた達を守ってくれる光導姫は無力化された。・・・・・・・・悪いけど、あんた達には死んでもらうわ後輩」
続けて、ダークレイは酷薄な目を陽華と明夜に向けた。この命令は戦力として自分の役割として自身が了承した事だ。ゆえに、ダークレイがこの世で1番嫌っているレイゼロールの命令だとしても、この命令は果たす。他の者がこの事を知れば、矛盾しているかのように思うだろうが、それが既に闇に堕ちて壊れているダークレイの考えだ。
「「っ・・・・・・・!」」
ダークレイから改めて今の自分たちの状況を突きつけられた2人は、焦ったような表情になる。ダークレイの指摘通り、風音が倒れた今、陽華と明夜は限りなくピンチだ。風音が負けた相手に、自分たちが勝てると思うほど、陽華と明夜は自惚れてはいない。
「ごめんいま戻った! 彼女は安全な場所にしっかり送ったよ! ッ、連華寺さん!? いったいこれは・・・・・!?」
だが、不幸中の幸いと言うべきか、光司が戦場に戻って来た。光司は陽華が抱え気を失っている風音を見て驚いたような表情を浮かべた。




