第885話 闇導姫の実力(4)
「ありがとう陽華ちゃん。おかげで、左腕を回復する事が出来たわ。後はまた任せて」
陽華と明夜の連携によって稼げた時間で、自分の腕を治癒する事の出来た風音は、陽華に感謝の言葉を述べた。風音の式札はどんな状況にもおよそ対応する事の出来る能力だ。風音は式札を使って自分の負傷を完全に近い状態で治していた。
「分かりました! なら、私はまた明夜の所に戻ります!」
風音の指示に素直に従い、陽華は警戒しながら明夜のいる場所まで下がった。でなければ、風音の邪魔になるからだ。
「・・・・・・・・回復も出来るのね。本当に便利な能力だこと」
「便利な能力でもそれを使えなければ意味がない。私はいま2人に助けられてその能力を使う事が出来た。確かに2人はまだ未熟だけど・・・・・それでも、私には仲間がいる」
「・・・・・・・・・・何が言いたいの、あんた」
唐突にそんな事を言ってきた風音の真意がわからずに、ダークレイは目を細めながらそう聞き返した。ダークレイにそう言われた風音は信念を感じさせる目でこう言った。
「私があなたには負けないという理由よ。自ら仲間を捨て闇に堕ちたあなたに、私は絶対に負けない。第1式札から第5式札形態解除。全式札、寄り集いて龍神となる!」
「っ・・・・・」
風音は全ての式札が1つに集まり眩い光を放つ。ダークレイはその眩い光から目を背けるように手を自分の顔にかざした。
「ガァァァァァァァァァァァァァァッ!」
光が収まると、そこには荒ぶる龍神が風音の背後に存在していた。この龍神は風音の全ての式札を使用して顕現する、風音の最強の攻守形態と言えるものだ。龍神は雄叫びを世界に轟かせた。
「龍神の息吹よ! 彼の者に浄化の光を放てッ!」
風音は龍神に命じて龍神に超高密度の光線を放たせようとした。時間はけっこう稼げた。あと少しすれば光司も戻って来るだろう。そういった事も忘れずに、風音はダークレイに攻勢を仕掛けたのだった。
龍神が口を大きく開き、そこに光が集まる。あと少しで龍神は超高密度の光線をダークレイに向かって放つだろう。ダークレイは近接戦特化の闇人。遠距離攻撃はない。風音は今までの戦闘でその事を確認していた。
(あなたはこの攻撃を避けるしかない。だから、避けるのなら避けなさい!)
とにかくダークレイの戦闘距離が分かった今、ここからは光司が来るまでは出来るだけ遠距離で対応する。ゆえに風音は、それを目的として龍神の光線を放とうとした。
「ガァァァァッ!」
そして、遂に龍神が光線を放った。対象の闇を祓う浄化のレーザーがダークレイへと襲いかかった。
「・・・・・・自ら仲間を捨てて、ですって・・・・? 何も、何も知らないくせに・・・・・・!」
しかし、ダークレイはレーザーを避けようとはしなかった。ダークレイはギリッと奥歯を噛みながら、自分の負の感情を高めると、こう言葉を呟いた。
「形態変化、杖」
ダークレイがそう呟くと、ダークレイの両手に装着されていた黒の指貫グローブが闇の光に変わり、その闇の光は黒い杖へと形態を変えた。
「闇技発動、フルパワーダークイレイザー・・・・!」
ダークレイはその杖を自分に向かって来るレーザーに両手で構えると、闇技を発動させた。すると、杖の先端から龍神のレーザーと同じ太さの闇色のレーザーが放たれた。
龍神の放ったレーザーとダークレイが放ったレーザーは互いに衝突しあい、やがては相殺された。
「なっ・・・・・!?」
そのまさかの事態に風音は驚愕した。一瞬だけ風音に隙が生じる。
「形態変化、拳。闇技発動、ダークアンチェイン・スピードモード」
ダークレイはその隙を見逃さず、杖を再び指貫グローブに形態を変化させると、スピード特化の闇技を発動し、一瞬で風音へと急接近した。先ほどのダークアンチェイン時はいわば満遍に身体能力を上げる技。対してこのダークアンチェインは、スピードのみにリソースを割いてスピードに特化する技だ。スピードは先ほどのダークレイよりも更に素速い。
結果、風音はダークレイの接近を許してしまった。
「ッ!? 龍神よ!」
接近を許したが何とか反応した風音は龍神に撃退を命じた。龍神は右手で接近してきたダークレイを切り裂こうとした。
「闇技発動、ダークアンチェイン・パワーモード。ダークブレット」
しかし、ダークレイは自身の身体能力強化の闇技を今度はパワー特化に切り替え、再び両の拳に闇を纏わせると、龍神の爪撃を回避し、両の拳を龍神に胴体に同時に叩きつけた。
「ダブルダークストライク・・・・・!」
パワー特化形態のダークレイの強化された両の拳をまともに受けた龍神は、そのダメージに耐えきれずに式札へと戻ってしまった。
「っ!?」
「風音さん!? 水の――」
龍神が式札に戻ってしまった事で一瞬無防備になった風音。そんな風音を助けようと、明夜は魔法を行使しようとしたが、
「遅い・・・・!」
その前に、ダークレイが風音の腹部に右の拳を叩き込んだ。
「がっ・・・・・・・・」
そして、ダークレイの一撃をまともに受けてしまった風音は、一瞬にしてその意識を失ってしまった。意識を失った風音の体が少し光ったかと思うと、風音の変身は解除された。
――日本最強の光導姫は、闇導姫の前に敗れた。




