第883話 闇導姫の実力(2)
「――闇技発動」
ダークレイがポツリとそう呟くと、ダークレイの両手のグローブの甲に刻まれた紫の紋様のようなものが発光した。するとその次の瞬間に、ダークレイの両手に闇色の光が纏わりついた。
「ダークブレット・・・・・・!」
ダークレイは技の名前を言葉に出しながら、左拳を水の龍に放った。闇纏う拳に触れた水の龍は一瞬にしてその水の体を弾けさせた。ただの水が重力に引かれて地面へと落ちていく。
「なっ・・・・・」
自分の強化された魔法を拳だけで無効化された明夜が、遠くから驚いたような表情を浮かべた。
「次はあんたよ」
「ッ! やれるものなら・・・・・・・・・!」
ダークレイはそのままの勢いで、今度は風音に闇纏う右拳を放った。明らかに強化された一撃。だが、風音は恐れずに刀を突きの形でダークレイの腹部に放った。
(私は今1度限りなら、どんな攻撃も受けない。だから、この闇人の一撃は私には入らずに、私の刺突だけがこの闇人に入る・・・・・!)
ダークレイは風音の今の状態を詳細には知らない。だから、この作戦は上手くいくはず。風音はそんな風に考えていた。
だが、
「・・・・・あんた何か怪しいわね。動きに迷いがなさ過ぎる」
ダークレイは直感で風音に疑問を抱き、自分の体を右横に倒した。そして、ダークレイは風音の胴体に放っていた右の拳を途中で無理やり軌道変更させ、風音の左腕に拳打を叩き込んだ。
「っ・・・・・・・・!?」
まさかダークレイがそんな行動に出るとは思っていなかった風音。結果的に、風音の刺突は外れ、風音を守っていた光の羽衣は、ダークレイの思わぬ一撃で霧散し、式札へと戻ってしまった。
「へえ、そういうカラクリ・・・・・あんたの能力は便利そうね、後輩」
風音の光の羽衣の性質を悟ったダークレイは、その人間を超越した身体能力を活かして、地面に倒れ込みそうになる体を左足で地面を蹴って直立の姿勢に戻した。そしてその流れのまま、ダークレイは風音に右足で薙ぐような蹴りを放った。
「あなたのような闇人に後輩と呼ばれる筋合いはないわ!」
風音はダークレイの蹴りを避け、刀を真一文字に振るった。今度はダークレイがその斬撃を回避する。
「正論ね。でも、事実は事実よ」
「氷柱よ! 彼の者に向かって飛べ!」
ダークレイが闇纏う両の拳を風音に連続で放とうとすると、明夜が今度は風音の後方から4つの氷柱をダークレイの方に飛ばしてきた。
「ちっ・・・・・」
攻撃のタイミングを潰されたダークレイは両手と両足を使って氷柱を砕かざるを得なかった。
「第6式札から第10式札、光の矢と化す!」
風音は何度目かになる光線を5条またダークレイに放った。氷柱を砕いたダークレイは、またもその光線を弾いては回避しなければならなかった。
(ちっ、面倒な。あの青い光導姫、的確なタイミングで私に妨害をしてくる。レイゼロールの話では新人って話だけど、普通の光導姫と遜色ない)
ダークレイはチラリと一瞬だけその黒の瞳を後方にいる明夜に向けた。中々どうして嫌なタイミングで邪魔をして来る。
(この光導姫が強いのは分かってる。立ち回りと能力的にたぶん『光導十姫』クラス。さっきから無理に攻めてきてないのは、あの守護者が戻って来るまでの時間稼ぎってところね。そうした方がリスクも少なくて戦術的には正しいから)
そして意識を風音に向き直し、ダークレイはそんな分析を行った。自分もかつては光導姫だった。なので、光導姫の実力や考え方は他の闇人たちよりは分かっているつもりだ。
(だからって言って、別にこいつらに負けるとは全く思わないけど。・・・・・・・・だけどまあ、守護者が戻って来たら面倒にはなる。なら・・・・)
「・・・・・・速攻で潰す」
ダークレイはその言葉だけ肉声で呟くと、更なる闇技を発動させた。




