第88話 シェルディアの東京観光1(3)
「どうしたの?」
「い、いえ失礼しました! ご一括で・・・・・・?」
「もちろん」
女性店員は恐る恐るそのカードを受け取った。その色は何色にも染まらぬ色である黒色。
(は、初めて見た・・・・・・・これがブラックカード・・・・・!!)
それは超が3つほどつくセレブカードであり、レアカード。常人なら一生に1度お目にかかれるか否かといった代物だ。まさに選ばれた者しか持つことが出来ないカードである。
(この子、いやこの人いったい何者・・・・・・!?)
カードの手続きを行いながら、店員の心中はその疑問一色になった。この合法ロリ、思っていた以上にとんでもない人物のようだ。
「あ、ありがとうございました・・・・・・」
呆然とした様子の店員から雑誌とカードを受け取ると、シェルディアはひらひらと手を振って書店を後にした。
「・・・・・・・私もいつか成り上がって見せるわ」
不思議なお客を見送りながら、女性店員――三原加奈子23歳、職業フリーターは瞳に並々ならぬ熱量を灯しながらそう誓った。
書店を出たシェルディアは、自分の影に粗雑にサイフを投げ入れると、近くにあったベンチに腰掛けて、雑誌を広げた。
「ああ、思い出した。この東京タワーは前に来たときに行ったのよね。後で行こうっと。スカイツリー? ここは知らないわね」
ペラペラと頁を捲りながら、シェルディアはどこを訪れようか、どれが自分の興味を引くか確かめていく。自分が行きたい場所などは影から万年筆を取り出して、印をつけていく。
「こんなものかしら」
見直すとほぼ印だらけだが、別に今日だけで回るということはないのでそこは気にしない。それに自分はノータイムで場所を移動できるので順番も自分の気になるものからで大丈夫だ。
「ふふっ、さあ久しぶりの東京観光の始まりよ!」
パンと手を叩き、シェルディアの観光が幕を開けた。
まずシェルディアは1番気になっていたスカイツリーを観光しようと、影に沈んだ。シェルディアのこの影による移動は、1度訪れた場所、または写真などで見た場所などに転移できるというものだ。なのでスカイツリーの写真を目にしたシェルディアは、そこを目的地と定めて転移した。
次の瞬間、シェルディアが現れたのは東京都墨田区にある高さ634メートルを誇る東京のシンボルの1つ、東京スカイツリーの目の前だった。
「これは・・・・・・・・すごいわね」
初めて実物でスカイツリーを見たシェルディアは、感嘆の声を漏らした。人間はいったいどうやってこのような高さの建造物を建てることが出来るのか。建築学などは全く学んでいないシェルディアには不思議で仕方なかった。
(・・・・・・・全く人間というものは、本当に面白いわ)
改めてそんなことを思いながら、シェルディアはスカイツリーへと歩を進めた。
当日分のチケットを買って、シェルディアはエレベーターで天望デッキを目指す。
「・・・・・・・・綺麗だわ」
まずシェルディアが訪れたのは、地上から350メートルにある天望デッキだった。
その高さから東京の町を見渡したシェルディアはそう呟いた。見渡す限りの建造物はそれらが全て人が建てたのだと思うと、愛おしくすら映る。
場所を移して様々な角度から東京を見渡す。似ているようで似ていないその景色を一通り堪能すると、シェルディアは今自分がいるこのフロアに目を向けた。見てみると、カフェなどもあるらしい。
「天望回廊・・・・・・・・?」
フロアを回っていたシェルディアは、天望回廊チケットカウンターという文字が目に入り足を止めた。
「この天望回廊というものは何なのかしら?」
「はい、お客様。天望回廊はこの天望デッキより、100メートル上空にあるエリアのことです。途中、スロープ状の回廊を進んでいただくことで空中散歩の気分も味わえますよ。最高到達点であるソラカラポイントからの景色は絶景です」
係員の説明を聞いたシェルディアは、キラキラと目を輝かせた。そんな素敵な場所があるならば行かなければならないだろう。
「どうやって行けばいいの!?」
「こちらで天望回廊行きのチケットを買って頂いて、天望シャトルからお行きになれます」
シェルディアは早速チケットをカードで購入すると、天望シャトルに乗り込んだ。
シャトルがついたのは、地上から445メートルのフロアだ。ここから5メートルはスロープを伝って450メートルのフロアまで上るのである。
「すごいすごい! 本当に空を歩いてるみたい!」
天望回廊を歩きながら、シェルディアはくるりと回った。まるで空で舞っているようだ。
感動の天望回廊を上り、地上から450メートルのフロアに辿り着いたシェルディア。そして地上から451・2メートルのソラカラポイントから再び東京を見渡した。
「・・・・・・・・・・」
シェルディアはただただ景色を堪能した。何とまあ、素晴らしい景色であろうか。蒼穹の空の元に広がるのは、人間達が作り上げた都市がある。先ほどもこうやって都市を見渡したわけだが、少し高さが違うだけで景色はこうも変わるのかとシェルディアは感じた。
「・・・・・・ここに来て正解だったわね」
シェルディアはしばらくガラス越しから当たる陽光に、ブロンドの髪を輝かせながら、その景色を見続けた。




