第878話 光導姫VS闇導姫(1)
「――ソレイユはまだ私が言った光導姫を出さない気かしら?」
住宅街から少し離れた場所にある、開けた空き地のような場所。そんな場所で、不機嫌な女性の声が暮れゆく空の下に響く。その声の主――『十闇』第3の闇、『闇導姫』のダークレイは自分の目の前にいる光導姫『巫女』こと、連華寺風音に対してそう質問を飛ばした。そして、続けて自分が左手で肩を掴んでいる女児に視線を落とした。
「早くしないと、この子供を殺すわよ。私も別に殺人鬼じゃないのよ。無駄な殺しとかはあんまりしたくはないわ」
冷めた口調で殺害予告するダークレイ。ダークレイに人質に取られている女児はまだ3、4歳といったところで、いまいち状況を把握していないのだろう。不思議そうにダークレイを見上げながら、「おねーさん、ころすってなーにー?」と声を上げていた。
「くっ・・・・・もう少しだけ待ってください。ソレイユ様は必ず光導姫レッドシャインとブルーシャインをこの場に呼び出します。ですが、なぜあなたは彼女たちを呼び出すんですか? そんな、卑劣極まりない手を使ってまで・・・・・」
ダークレイの言葉を受けた風音は、神妙な面持ちで目の前の闇人にそう言った。風音からしてみれば、なぜ最上位闇人が新人の光導姫である陽華と明夜をわざわざ名指しして呼び出したいのか、それが全く分からない。この闇人の目的が、風音には予想も出来なかった。
「それをあんた達が知る必要はないわ。あんた達は黙って動かなければいいのよ」
だが、ダークレイはそう言って風音の質問を一蹴した。その傲岸な態度に、守護者『騎士』こと香乃宮光司は苛立ったような表情を浮かべた。
「ッ、卑劣な闇人め・・・・・・! その子に傷の1つでもつけてみろ。絶対に、僕はお前を許さないからな・・・・!」
右手の剣を握り締めながら、ダークレイに対して怒りを向ける光司。そんな光司に、ダークレイはつまらないものを見るような目を向けた。
「ふん、ご立派な正義感ね。本当、お手本のようにつまらない正義感・・・・」
ダークレイがそう呟き、そのまま緊張感のある時間が2分を過ぎた時、風音と光司の背後に何者かの気配が生じた。
「――風音さん! 香乃宮くん! 子供は大丈夫!?」
「ここに来る前に、ソレイユ様から話は聞きました。私たちが闇人に名指しされたって」
焦ったような声と真剣な声で風音たちに声を掛けてきたのは、ダークレイが名指しした人物である陽華と明夜だった。2人は一旦神界に呼び出され、ソレイユに事情を聞かされ、ここに転移してきたのだった。2人は既に光導姫に変身していた。
「ッ、陽華ちゃん、明夜ちゃん! 大丈夫、人質は無事よ!」
「朝宮さん、月下さん。すまない、本来なら新人の君たちをこの場に呼ぶ訳にはいかなかったけど・・・・・どうしても、ソレイユ様に君たちを呼んでもらわないといけなくなってしまった」
こちらに駆け寄って来た陽華と明夜に、風音と光司もそれぞれそんな言葉を返した。




