第877話 闇導姫、襲撃(4)
『闇人が東京に現れました! 先に現地に行ってもらった「巫女」の視界を見たところ、現れたのはシオン・・・・・・ダークレイです・・・・!』
「ッ、あいつか・・・・・・・・」
ロンドンでの記憶を思い出しながら、影人はつい肉声に出してそう言葉を呟いた。ダークレイ。闇導姫を名乗る、元光導姫の少女にして現在は最上位闇人という特殊な経歴を持つ者。その闇人が東京に出現したらしい。
「目的は? 最近あいつらは東京に出現しなかった。それが何で急にまた現れた?」
隣にはシェルディアがいるが、影人は肉声でソレイユにそう質問した。シェルディアは既に影人がスプリガンである事を知っているし、影人とソレイユが繋がっている事を知っている。ゆえに、その事はいま隠さなくていい。シェルディアもチラリと影人の方を見てくるだけで、何も言ってはこない。
『それなんですが・・・・・おそらく、目的は陽華と明夜です』
「は? 朝宮と月下・・・・・・・? 何でそうだって分かるんだよ?」
影人は意味が分からないといった感じの顔を浮かべた。ダークレイの目的が陽華と明夜という事も意味が分からないが、なぜソレイユがそう言ったのか根拠となるものが分からなかったからだ。
『それはダークレイが「巫女」を通して私にこう言って来ているからです。光導姫レッドシャインとブルーシャインを自分の目の前に連れて来いと』
「何だそのくそダサい名前・・・・・って、ああ朝宮と月下の光導姫名か。確かにダークレイは何でか朝宮と月下を目的にしてるみたいだな。でも、そんな要求をわざわざ聞いてやる義務なんざ、こっちにはないはず――」
一種あまりのダサさに何の名前だと本気で思った影人だったが、それが陽華と明夜の光導姫名だと思い出す。何だか前にも同じような事を言っていた気がする。だがそれはどうでもいい。とにかく、そんな要求は無視すればいいだけだ。だが、ソレイユは影人がその事を言う前に、こんな言葉を挟んできた。
『それがそういう訳にもいかないのです、影人。なぜならば――』
ソレイユはどこかひっ迫しているような声で、こう言った。
『ダークレイが、子供を人質にしているんです。陽華と明夜を呼ばなければ、その子供を殺すと』
「・・・・・・・・・は?」
その余りの理解を超えた言葉に、影人は唖然としたようにそんな声を漏らした。
『たぶん光導姫が結界を展開する前に、現地にいた子供を人質にしたのだと思います。とにかく、そういう事情なので、私は陽華と明夜をダークレイのいる場所に派遣せざるを得ません。ですからあなたも、もしもの事が起きないように現場に向かってください』
「そいつは分かったが・・・・・クソッ、何か面倒な事になりやがったな・・・・・・・・」
ダークレイの要求を無視できない理由を理解した影人は、ソレイユの命令を了承しながらも、ついそんな愚痴を漏らす。影人の役目は、新人でありながら光導姫としての才能を秘めているという陽華と明夜を影から助ける事。それが主な仕事だ。ゆえに、2人がダークレイに殺されないように、影人も現場に向かう必要がある。
「ねえ、影人。今ソレイユと話していたのよね? ならあなたもダークレイが近くにいる事は知っていると思うけど・・・・・・それ以外に何かあったの?」
「何かってわけじゃないんだが、実は・・・・・」
ダークレイの気配をソレイユ同様に察知していたシェルディアが、影人の様子を見てからそんな事を言ってきた。影人は今は一部的に自分たちの協力者になってくれているシェルディアに、今ソレイユから聞いた事を全て話した。
「ふーん、それは確かに陽華と明夜が目的ね。多分、レイゼロールはあの子たちが将来厄介な存在になると思って消したがっているのね」
「多分って・・・・・一応、嬢ちゃんはレイゼロールサイドだろ。その辺りのこと聞いてないのかよ?」
「私、興味ない事以外は聞かないから。それより、これはチャンスかもしれないわよ影人」
「チャンス・・・・・・? 何の?」
シェルディアが面白くなって来たという感じでそんな事を言ってきたので、意味が理解できなかった影人はそう聞き返した。
「もちろん、私があなた達に協力すると言った、あの事のよ。上手くいけば、あなたはこの戦いで、大きな貸しをレイゼロールに作れるかもしれない。そうすれば・・・・・・・・あなた達の計画の第一歩を踏む事が出来るわ」
影人の疑問に、協力者となった吸血鬼は笑みを浮かべながらそう言葉を述べた。




