第876話 闇導姫、襲撃(3)
「全部で320円だよ。また来ておくれねぇ」
「はい、また来ますよ」
10分後、レジで会計を済ませた影人は、店主である80歳くらいのお婆ちゃんにそう言うと駄菓子屋を出た。そして、自分とは違った分の駄菓子が入った袋をシェルディアに手渡した。
「ほいよ、嬢ちゃんの分だ。合計金額98円はかなり頑張った方だぜ」
「ありがとう。何だか制限を受けて買い物をしたのは随分と久しぶりな気がするわ。それでも楽しかったけど」
「そういや嬢ちゃん普通に金持ちっぽいよな。結局、家賃も1人で払ってるって事だし。・・・・・・後学のために聞きたいんだけど、どうやってそんなにお金稼いだんだ? あと、ぶっちゃけ総資産いくらくらい?」
駄菓子屋からの帰り道を歩きながら、ゲスな心を出した前髪はシェルディアについそんな事を聞いた。実はこれはシェルディアが吸血鬼だと分かってから密かにずっと気になっていた事だった。
「別に大した事じゃないわ。私はもう何千年とこっちの世界にいるから、色々昔の物や宝石とか土地とか、そういったものをコレクションとして持っていたの。それを売ったり賭け事なんかをしてたら、気づけば結構な金額を持っていたわ。後はそれを元手に適当に資産運用してたらまた増えたというだけよ。総資産はそうねえ・・・・・・・・はっきり言って、詳しい額は覚えてないけど、日本円で言うなら1000億くらいかしら? まあ、管理は面倒だからその分野の信用できる人間たちに任せているけど」
「ぶっ・・・・・! せ、1000億!? マ、マジで言ってんのか嬢ちゃん!?」
その数字を聞いた影人は吹き出し、信じられない者を見るような目でシェルディアを見た。その数字は影人のちっぽけな予想を遥かに超えていた。
「ええ、多分それくらいだと思うわ。そんなに驚く事かしら?」
「いや驚く驚く! スケールが違いすぎるぜ!? しかし、マジか。嬢ちゃん、普通に世界トップレベルの金持ちじゃねえか・・・・・・しかも不老不死でありえん強いしその容姿だし・・・・・やっぱ、嬢ちゃんてチートだわ・・・・・」
なんか額が額だけに、逆に現実感がなくなった影人は思っていた以上に早く冷静になった。なんだろう。もはやシェルディアは完璧な存在の気がする。あと、金を稼いだ方法については全く参考にならなかった。その方法で金を稼げたのは、シェルディアが不老不死の吸血鬼だからだ。
「ふふっ、まあお金なんて私からすれば大したものではないわ。ある分に越した事はないとは思うけど。それより、どこかに座る場所はないかしら? 私、早く駄菓子を食べてみたいわ」
「ああ、それならこの近くに小さな公園があるから、そのベンチで――」
地元をチャリで巡るという、中々若者らしくない趣味を持った影人が頭の中で地図を広げながらそんな言葉を述べようとした時、唐突に自分の内にソレイユの声が響いた。
『影人!』
(っ・・・・・? 何だソレイユ?)
真剣なソレイユの声。それを聞いた影人は、何か嫌な予感がしながらも内心でそう言葉を返した。
「あら、この気配は・・・・・・・・・」
一方、影人がソレイユに話しかけられた頃、シェルディアも何かを感じたかのようにそんな声を漏らした。




