第874話 闇導姫、襲撃(1)
「――ねえ、いつまで私はここでジッとしてればいいのよ。レイゼロール」
この世界のどこか。辺りが暗闇に包まれた場所。石の玉座に座る闇の女神に、闇に堕ちた光導姫はそんな言葉を飛ばした。
「・・・・・・・・突然どうした。積極的には我の仕事を手伝いたがらないお前が。気でも変わったか?」
レイゼロールは自分を睨みながらそう言ってきたダークレイに首を軽く傾げてそう聞き返した。
「ふざけないでちょうだい。私が言いたいのは、呼び戻されてずっとここにいるだけというこの状況が苛立つという事よ。あんたが私を呼び戻した理由は、あのスプリガンとかいう奴を排除するためなんでしょ」
どこかわざとらしいレイゼロールの反応に、ダークレイは口調を厳しくそう言葉を放つ。ダークレイは既に闇人としての封印を解いている。ゆえに、また力を封印しない限りは勝手に外に出る事は許されない。出れば、闇人としての気配をソレイユやラルバに察知されてしまうからだ。
「それについては言ったはずだ。ゼノが帰ってくるまでは、こちらからスプリガンに仕掛けないとな。スプリガンの事に関しては数日前にシェルディアが仕掛けたようだが・・・・・まあ奴から何の連絡もないという事は、スプリガンは始末しなかったという事だろう」
「それはどうかしらね。もしかしたら、そのスプリガンが逆にあの化け物を殺したかもしれないわよ。連絡がないのはそのせいだったりしてね」
「それはありえん。いくらスプリガンが規格外の戦闘力を有していても、シェルディアには敵わん。絶対にな。シェルディアとはそういう存在だ」
レイゼロールはダークレイの推測をすぐさま否定した。シェルディアの強さをここで1番知っているのはレイゼロールだ。レイゼロールはシェルディアがどれ程までに強いか知っている。『世界』の顕現に、不老不死。そして圧倒的な戦闘能力。あれは一種の異次元の存在だ。レイゼロールはシェルディアが負ける、ましてや殺される事など想像も出来なかった。
「・・・・・・・・ふん。まああの化け物の事はもういいわ。あんたの予想が当たっていると仮定して、スプリガンはまだ生きているという事にしましょう。なら、私があの不審者を殺して来てあげるわ。ここにいるよりはまだそっちの方がマシよ。確か、あいつはよく日本の東京に現れるのよね?」
「・・・・やめておけ。我がスプリガンに今は仕掛けないと決めている理由は奴の戦闘力が規格外だからだ。それは奴と何度も戦っている我がよく知っている。奴の前ではフェリートも、冥も、キベリアも敗れた。ゆえに、奴に勝てるとすれば、最強の闇人であるゼノか、異次元の化け物であるシェルディアくらいだ。・・・・・・・・それか、更にカケラを吸収して力を取り戻した我かな」
苛立ちながら突然そんな事を言ってきたダークレイ。しかし、レイゼロールはダークレイのその行動を止めようとした。
「は、何よ? 私がフェリートや他の闇人どもより弱いって言いたいの、あんたは? だとしたら、随分と舐められたもんだわ・・・・・・!」
レイゼロールのその言葉を聞いたダークレイが怒ったようにその視線を更に厳しくした。
「・・・・・別にそうは言っていない。お前の位階はフェリートより1つ下だが、お前の強さはフェリートともほとんど遜色がない。いや、もしかしたら奥の手がある分、お前はフェリートよりも強いかもしれん。位階を飾りと言い切るつもりもないが、それは事実だ」
レイゼロールは怒るダークレイを宥めるようにその事実を口にした。それは嘘ではない。客観的な事実だ。
「・・・・・・・・だが奴は、スプリガンはその上をいく規格外だ。お前ですら、奴には敗北する可能性が高い。今まではそうなっていないが、スプリガンに負け、弱ったお前が戦場にいる光導姫に浄化される可能性もあるのだ。我はまだお前を失うわけにはいかない。だから、お前がスプリガンに仕掛ける事を我は許可しない」
その事実を認めた上で、レイゼロールは再びダークレイにそんな言葉を与えた。




