第872話 文化祭、終幕(4)
「こ、香乃宮・・・・・・ひ、非常に癪だが助けてくれ・・・・・・」
「わ、分かったよ!」
スプリガン時ではないただのモヤシである影人は、仕方なく光司に助けを求めた。影人から助けを求められた光司はすぐに影人の胸ぐらを掴んでいる暁理を止めようとした。
「お、落ち着くんだ君! 取り敢えず一旦この手を離して!」
「ッ!? 香乃宮光司・・・・・・・? 悪いけどこれは僕とこの前髪との問題なんだ! 口出しはなしで頼むよ!」
「そ、それはその通りだけど、このままだと帰城くんが・・・・」
光司の声を掛けられた暁理は一瞬驚いたようにそう反応したが、怒りに支配されている暁理は光司を無視して影人の胸ぐらを掴み続けた。まずい。このままだと、胸ぐらを掴まれ続けて強烈なパンチを食らってよろけるかもしれない。いや、よろけるどころか確実にモヤシである自分はダウンする、と影人は思った。
「ははははっ! 賑やかなもんね! こういう雰囲気、私は好きだわ!」
「うん、私もこういった空気は好きだよ。やはりお祭りは賑やかでないとね」
真夏とロゼはその光景を楽しそうに見ていた。人の不幸を見て笑いやがってこの変人ども、と影人は心の内で恨んだ。
「ん? この声は・・・・・あ! 会長にピュルセさん! こんばんは!」
「こんばんは、ぶっ飛んだパーティーみたいに賑やかですね。いいと思います。一度きりの十代、騒げる時は騒いでなんぼってものですから。いえーい」
そして、そこに更なる不幸が前髪に襲来した。真夏やロゼと知り合いである風洛高校の名物コンビ、朝宮陽華と月下明夜が2人を見つけてそう声を掛けたのだ。
「あらウチの名物コンビじゃない。あなたたちもせっかくだから混ざって来たら? そっちの方が面白いし」
2人に声を掛けられた真夏は気安い感じでそう言うと、影人たちの方へと指を向けた。
「? 混ざってきたらって・・・・・って、わっ!? 何やってるの帰城くん香乃宮くん!?」
「ふーむ、これは痴話喧嘩と見たわ。正直、女子は大好物ね」
「そんな事言ってる場合じゃないでしょバカ明夜! 私たちも帰城くん助けに行くよ!」
暁理に胸ぐらを掴まれている影人に、暁理を止めようとしている光司という光景を見た陽華は、自分もその輪の中に加わった。陽華にバカ呼ばわりされた明夜も「私は断じてバカじゃないわ!」と言いながらも、陽華の後を追った。
モヤシの前髪を暁理から助けるために(と言っても、始まりは100パーセント前髪が悪いが)、光司、陽華、明夜が暁理を何とか宥めようとした結果、
「ご、ごめん。ちょっとお見苦しい姿を見せちゃったね。ようやく少しは落ち着いたよ。ありがとう、香乃宮くん、朝宮さん、月下さん。一応、言葉を交わすのほとんど初めてだろうから、自己紹介を。僕は早川暁理、よろしくね」
2分後に暁理は普段の様子に戻っていた。暁理は3人と光導姫の時に話をしているが、3人は暁理が光導姫であるという事を知らない。ゆえに、暁理はあくまでほとんど初対面のように3人にそう言った。
「よろしく早川さん! 私は朝宮陽華です!」
「私は月下明夜。早川さんの存在は知ってたけど、近くで見るとやっぱりイケメン可愛いね・・・・」
「僕たちの名前を知ってくださっていたみたいだから、自己紹介はあまり必要ないかもしれないけど・・・・香乃宮光司です。よろしくお願いします」
暁理の自己紹介を受け、3人も暁理に自己紹介をした。
「あんた達、自己紹介してるとこ悪いけど、帰城くんどっかに逃げたわよ」
「「「「え!?」」」」
唐突に真夏がそんな事を言ってきたので、驚いた暁理、陽華、明夜、光司の4人はそんな声を上げた。
「ほ、本当だ! さっきまでここにいたのに!」
自分の後ろを振り向いた暁理がそう言葉を放つ。暁理から解放された影人はほんのついさっきまで、暁理たちの後ろにいたはずだ。だが、いつの間にか影人の姿はどこにもなかった。




