第871話 文化祭、終幕(3)
「き、君が約束破ったのにずいぶん勝手だね! で、でも君がどうしてもって言うなら一緒に行ってあげてもいいよ。僕は優しいからね!」
影人の言葉を聞いた暁理は、少し怒ったようにそう言葉を放った。しかし、その顔は嬉しさでニヤける顔を必死に我慢するような、そんな顔であった。
「いや、どうしてもって程では決してないが・・・・・というか、台場に行くのはガン◯ムベース行きたいからで、お前誘ったのはそのついでだしな」
「は・・・・・・・・・・!?」
しかし、そんな暁理の顔は2秒後には影人の発言で崩れてしまった。
「おいこのバカ前髪! どういう意味だいそれは!? 僕のさっきまでの気持ちはどうしてくれるんだよ!? せっかくちょっとは見直してあげたのに! 今回ばかりは流石に僕もキレるぞ! 乙女の心を弄びやがって!」
「は、はあ? 何をそこまでキレてんだよお前・・・・・・? ちょ、おい! 髪を掴むな! ハゲるだろ!?」
キレた暁理は怒りを抑えきれずに影人の髪を手で掴む。影人は必死に自分の髪を怒り狂った暁理から守ろうと抵抗した。この場合、どう見てもキレている暁理が正しいので、前髪野郎は毛を全て毟られて禿げればいいと思う。おそらく異議はないだろう。
「おやおや、随分と賑やかな事になっているね帰城くん。見ようによっては微笑ましい光景だ」
「ッ、どこをどう見ればそんな感想が出てくるんですか!? あなたの目は節穴ですかピュルセさん!」
影人と暁理がそんな攻防を繰り広げていると、またもや影人に対して声を掛けてきた人物が現れた。聞き覚えのあるその声の主は、先ほど風洛の全生徒と職員たちから割れんばかりの拍手を送られた、稀代の芸術家であるロゼだった。そんなロゼに影人はそう言葉を叫んだ。
「いや、私の目は節穴ではないつもりだよ。節穴だったら芸術の世界では生きていけないからね。それより、そちらのムッシュ・・・・いや、マドモアゼルか。おそらく初めましてかな、私はロゼ・ピュルセ。よろしくお願いするよ」
「あ、えっと早川暁理です! こちらこそよろしくお願いします、ピュルセさん。それでええと・・・・・ピュルセさんはこのバカ前が・・・・影人とお知り合いなんですか?」
ロゼから自己紹介を受けた暁理は慌てて影人の髪から手を離すと、自身も自己紹介をした。そしてそのままロゼに対してそんな質問をした。暁理からすれば、ロゼがこんな見た目が暗い前髪の事を知っているのが意外だった。
「ああ、私は帰城くんには色々と世話になった身さ。そうだな一言で言うと・・・・・・フラれた女と言えば簡潔かな?」
ロゼは暁理の質問にニコニコとした顔でそう答えを返した。いや答えというよりも、それは地雷とか爆弾と言う方が的確だった。
「は、はあ!? おいアホバカ前髪! いったいどういう意味だよ!?」
ロゼから爆弾を投下された暁理は、今度は影人の胸ぐらを掴んでそう問いただした。
「別にどうもこうもないッ! 話せば多少は長くなるがやましい事とかは何もねえよ! というかピュルセさん! なぜ一言で表す言葉にそれをチョイスしたんすか!? もっと他に色々あったでしょう!?」
「いや今日の昼間の事で1番新しい関係性だったからね。ふむ、君のその姿を見るに、どうやら私は発言を間違えたみたいだね。というか今更なんだが、君友達いたんだね。いや、普通に驚いたよ」
「あんたは俺の事なんだと思ってるんですか!? というか普通にその発言は失礼だなおい!」
「そんな事はどうでもいいから早く僕の質問に答えろよこのバカ前髪!」
もはや軽いカオスと化したこの状況。しかし、そのカオスは更なる登場人物たちによって、深まる事になる。
「あ、こんなところにいたの『芸術家』! 捜したわよ!」
「ピュルセさん、先ほどは素晴らしい絵を当校に寄贈してくださり・・・・って帰城くん!? 大丈夫かい!?」
新たに現れたのは、真夏と光司だった。真夏はロゼに気軽にそう声を掛け、光司はロゼに改めてお礼の言葉を述べようとしたが、暁理に胸ぐらを掴まれている影人を見て驚いたような表情へと変わった。




