第870話 文化祭、終幕(2)
「この絵は風洛高校でずっと飾られる事になるわ! みんな! こんな素敵な絵を寄贈してくれたピュルセ氏に盛大な拍手を!」
真夏がそう言うと、割れんばかりの拍手がロゼに送られた。影人もここはしっかりとロゼに拍手を送る。風洛の全生徒と職員から拍手を送られたロゼは、少しキザったい感じで優雅に一礼した。
「ありがとう! これで閉会式は終わりよ! 明日からまた日常が始まるけど、その前に最後の非日常を楽しみましょう! この後はいよいよキャンプファイヤーよ!」
宣言通り、簡潔に閉会式を終わらせた真夏は笑顔で右手を空に向かって掲げた。
「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁ!」」」」」
すると、再び生徒たちの間に大きな歓声が起こった。
「正直昔から思うが・・・・・・・火を見るだけで何か楽しいか?」
10分後。運動場の真ん中で木を燃料として赤く燃え上がる炎を、運動場に設置されていたイスに座りながら見つめていた影人はそんな独り言を呟いた。
「――そりゃ君みたいに1人でポケーって火を見てるだけの奴はそうだと思うよ。普通はキャンプファイヤーって、周りの人たちみたいに踊ったり話をして楽しむものだしね」
影人の独り言に対して、どこからかそんな言葉が返ってきた。独り言に対して返事が返ってくるというのは奇妙だが、影人は自分の独り言に対して返事をしてくる奇特な人間を知っていた。
「そりゃ一部の楽しみ方だろ、暁理」
「一部でも1番ポピュラーな楽しみ方だよ。まあ、君みたいな非社交性がカンストしてる変人には理解できないかもだけどさ」
影人が自分の隣に現れた友人にそう言葉を返すと、その友人は容赦のない言葉を影人に浴びせてきた。
「ふん、そいつは仕方がないってやつだ。孤独に生きる者っていうのはそういうもんだ」
「うわー、君に慣れてる僕でも流石にその発言はドン引きだよ・・・・・君、本当に人間?」
「どっからどう見ても人間だろうが」
いつも通りの軽口を交わしながら、影人と暁理は燃え上がる炎を見つめた。日常生活ではこれほど大きな火を見ることはない。だから、なんだかんだ自然と視線は炎に集まっていく。
「で、何の用だよ。社交的な暁理サマは俺なんかに構ってる暇はないんじゃないのか? 他の友達とキャンプファイヤー楽しんでろよ。正直、邪魔だ。俺の孤独のな」
「君さ、本当人として終わってるよね。普通、わざわざ構いに来てあげた友達にそんなこと言う? ここは泣いて喜ぶところだろ」
「別に頼んでないからな。・・・・・・・ああ、そうだ。お前今週の土曜空いてるか? 空いてるなら、2人でお台場行こうぜ」
「え!? い、いきなりなに!? 一応、土曜は空いてるけど・・・・・・」
唐突に、影人からそんな誘いをされた暁理は心底驚き、ドキリとしたような顔で影人にそう聞き返した。
「いや夏休みにどっか行くっていうやつの埋め合わせみたいなもんだ。お前今回はかなり長く怒ってたから、なんか楽しみにしてたんだなーって思ってよ。それで、俺は優しいから仕方なしに埋め合わせしてやろうってわけだ」
すると、影人は変わらずに炎を見つめ続けながら暁理に対してそう言葉を返した。




