第869話 文化祭、終幕(1)
「今から第45回風洛高校文化祭の閉会式兼恒例のキャンプファイヤーを始めるわ! 全員、心して聞きなさい!」
午後5時半過ぎ。風洛高校の運動場に真夏の声が響いた。運動場に集まった風洛高校の全生徒・全職員は、朝礼台の上に立っている真夏の声に耳を傾けた。
「まずは閉会式、私から生徒を代表して言葉を述べるわ! 簡潔に言うからしっかり聞いてちょうだいね!」
いつも通りの元気に過ぎる声で真夏は閉会式の宣言をするとこう言葉を続けた。
「まず今年の文化祭は大成功よ! 例年の文化祭ももちろん大成功だったけど、今年は特にそう思えるわ! これもここにいるみんなのおかげよ、ありがとう!」
「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」」」
真夏がそう言うと、生徒たちの間から歓声が起こる。生徒たちはまだ文化祭の興奮が冷めやらないといった感じだ。
「・・・・・・・本当、ウチの会長はカリスマ持ちだな」
ポツリとそんな声を漏らしたのは、つい先ほど真夏に怒られた影人である。影人はポケーと朝礼台の上に立つ真夏を見つめながら、そんな言葉を呟く。普通の生徒がこんな事を言ってもこんな歓声は普通起こらない。このような歓声が起こるのは、真夏が生徒たちから好かれているからだ。
「そしてここで嬉しいサプライズ! みんなも知っている今年の文化祭、その特別アドバイザー! 有名な芸術家にして私の友人であるロゼ・ピュルセ氏から記念品として、氏が描いた絵を当校に寄贈してもらったわ! 私もついさっき渡されたから本当に驚いたわ!」
畳み掛けるようにと言うと少し変かもしれないが、真夏はバッと朝礼台の隣に立っていたロゼに手を向けた。真夏に手を向けられ、この場にいる全員から注目を集めたロゼはニコニコと笑いながら、生徒たちに向かって軽く手を振った。
「その寄贈してもらった絵が・・・・これよ!」
真夏はロゼと同じように朝礼台の隣に立っていた、生徒会副会長の光司に今度は手を向けた。光司は1枚の抱えていた大きなキャンバスをくるりと回転させ、そこに描かれている絵を生徒たちに向けた。
(ん? あれは風景画か・・・・・・? ぼんやりとは見えるが、いかんせんこっからじゃ見えん・・・・・・)
影人もロゼが描いた絵を人並みの興味から見ようとしたが、前に人がいる関係でどのような絵かは詳細には見えなかった。
「あ、ごめん副会長。多分そこからじゃ一部の人しか見えないから朝礼台の上に登ってきて!」
すると、そんな生徒たちの様子に気がついたのだろう。真夏が光司に朝礼台の上に来るように指示した。
「あ、はい!」
真夏の言葉を受けた光司が慎重に朝礼台の上に上がっていく。光司の慎重さは当然のものだろう。何せ、有名な若き天才芸術家であるロゼが描いた絵だ。本来ならばこんな一公立高校に寄贈されるような物ではない。
そして、真夏の横に立った光司は改めてロゼの絵を生徒たちに見せた。
「・・・・・・へえ、綺麗なもんだな・・・・・」
依然少し遠くからではあるが、ロゼの描いた絵を確認する事が出来た影人は、素直にそんな感想を呟いた。影人の周囲の生徒たちも「おぉ・・・・・」といった声を漏らしていた。
ロゼが描いた絵は、影人が予想した風景画だった。夕日に輝く風洛の校舎の窓や外に、ぼんやりとした人々が描かれている。ぼんやりと描かれているのはおそらくわざとだろう。
(何か不思議だな・・・・・絵が上手いのはもちろんだが、それだけじゃない何かを感じる。これがプロの絵ってやつなのか・・・・・・・・?)
美術部の部員の絵を見たときには感じなかった何か。迫力というのか心に訴えかけて来るものなのか、その何かの明確な正体までは分からない。だが、影人はロゼの絵に何かを感じたのだった。『芸術家』はただの変人ではなかったらしい。




