第865話 文化祭と前髪野郎(1)
次回の予告と違うのはご愛嬌である。
「・・・・・・・・・・文化祭も今日で終わりか。もうと言うべきか、ようやくと言うべきか・・・・」
9月26日水曜日、午前10時過ぎ、文化祭最終日。今日は前半に休憩時間をもらっていた影人は、校舎の壁にもたれ掛かりながら外に立っていた。今日の気温はちょうどいい感じで、暑すぎず寒すぎずでもない。ようやく秋といった感じの気温である。
「今日の予定はキャンプファイアー前のエアバンドくらいか。後は別にクラスの仕事以外はないし・・・・ふぁ〜・・・・・まあ、暇だな」
心地いい空気に軽くあくびをする。こういうのんびりとした時間は好きだ。だから全く苦ではないが、暇という感情は拭う事が出来ない。こうなったら学校を出て周囲をふらつくか。
「む? そこにいるのは帰城くんじゃないか。ははっ、偶然だね」
影人がそんな事を考えていると、影人に声を掛けてきた人物がいた。影人が前髪の下の目を声のして来た方向に向けると、そこには特徴的な水色と白色の髪色をした女性、ロゼがいた。格好はラフな水色のシャツにジーンズ。いつもの格好だ。
「げっ、ピュルセさん・・・・」
「女性にというか、人に対してその感嘆詞は失礼じゃないかい? まあ、私は気にしないがね」
つい正直に嫌な顔を浮かべた影人に、ロゼは笑いながらそんな事を言ってきた。そして、ロゼは影人の隣に来て同じように校舎の壁にもたれ掛かった。
「何か俺に用ですか? 手伝いとかなら、流石に断らせてもらいますよ。準備期間ならいざ知らず、今は文化祭なんですから。俺にも楽しんだりする権利があります」
「その割には楽しんでいなさそうだが、まあ君の言う通りだ。なに、君に声を掛けたのにそんな打算的な理由はないよ。ただ顔見知りがいたから声を掛けただけだ。だが、どうやら私は随分と君に嫌われてしまったようだね」
「別に嫌ってはいませんが・・・・・・・そんな事より、ピュルセさんは文化祭楽しんでるんですか? 元々、あなたがウチの高校に来たのは文化祭絡みの事でしょう」
影人はロゼのズバッとした言葉を表面上やんわりと否定しながら、ロゼにそんな質問を飛ばした。決して話題逸らしとかではない。
「ああもちろん、充分に楽しんでいるとも。日本の祭りの食の文化にも触れられたし、美術部諸君の完成した絵にも触れられた。もちろん各学年、各クラスの出し物も粗方見たよ。文化祭というのはいいね、帰城くん。凄く、凄く楽しいよ」
影人のその言葉に、ロゼは嬉しそうに、楽しそうに、そして満足そうな顔でそんな感想を漏らした。その表情に嘘偽りは見受けられない。
「・・・・・・そうですか。なら、よかったですね。その調子で終わりまで文化祭を楽しんでください。では、俺はこれで失礼します」
ロゼの感想を聞いた影人は適当にそう言葉を返すと、この場から去ろうとした。ロゼと一緒にいるのは正直に言って面倒だ。
「おいおい、待ってくれよ。見たところ、君は暇そうじゃないか。なら、少しの間私と一緒に文化祭を回らないかい?」
だが、ガシリとロゼが影人の右手を握り影人を逃さなかった。そして、ニコニコとした顔でそんな提案を持ちかけて来た。




