第862話 弾けろ文化祭(2)
「最後のアクシデントを抜きにすりゃ、まあまあ楽しめたな。全くビビりはしなかったが」
「嘘つけよ。君、ビビりまくりだったじゃないか。まあ僕は大人だから、あれくらいじゃ驚きはしなかったけど」
「死ぬ程ビビり散らかしてたのはどこのどいつだよ。お前こそ平然と嘘をつくな」
5組のお化け屋敷を出た影人と暁理はお互いにそんな感想、もとい友人どうしの軽い言い合いをしていた。結論から言えば、間違いなくどちらもビビっていたが、それを擦り付け合うのが友人同士の軽口というものである。
「ふふっ、私からすればどちらも怖がっていたように見えたけどね」
「「うぐ・・・・・」」
そんな影人と暁理の様子をシェルディアは楽しげに見ながら、バッサリと事実を告げた。唯一全く驚いたり怖がっていなかったシェルディアの言葉だけに、2人は気まずそうな顔になった。
「ん・・・・? あー、悪い嬢ちゃん。俺、そろそろ戻るよ。時間が来ちまった。悪いけど、今日はここまでな。後は嬢ちゃんの好きにしてくれ」
制服のズボンの右ポケットに入れていたスマホがバイブレーションしたのを感じた影人は、スマホを見た。それは休憩時間が残り10分を示す通知だった。そういえば、着替えの時に予め設定していたのだった。着替えにも時間が掛かるので、影人はもう空き教室で着替えをしなくてはならない。影人はシェルディアにそう言葉を述べた。
「あら、もうそんな時間? 楽しい時間が過ぎるのは一瞬ね。分かったわ、なら私はお客としてあなたのクラスに行きましょう。影人、仮装するんでしょ? 楽しみだわ。元はと言えば、私はそれが目当てで来たのだから」
「あー、確かにそういう話だったな・・・・・・分かったよ、なら10分後にウチの2年7組に来てくれ。俺は連絡係だけど、手くらいは振るよ。じゃ、そういう事で」
影人は苦笑しながら仕方なくそう言うと、シェルディアに手を振って小走りでどこかへと消えて行った。
「さて、そういう事だけどあなたはどうする暁理。私と一緒に影人のクラスに行く?」
「そうだね。僕も休憩時間は後20分しかないけど、影人をちょっと冷やかせるくらいは出来そうだし、シェルディアちゃんさえよければ、僕も一緒に行きたいかな」
シェルディアの誘いを暁理は笑顔で了承した。シェルディアと会ったのはこれで2回目だが、シェルディアとはけっこう仲が良くなれたような気がした。
(何か不思議な子だよな。絶対に僕より年下なんだけど、どこか自分より大人っぽいというか。でも、外見はとんでもなく可愛くて綺麗だし。影人の奴も、このギャップにやられたのかな・・・・?)
シェルディアを見つめながら、暁理はそんな事を思った。最初はシェルディアに少し嫉妬していた暁理だが、今ではその嫉妬心も全くない。シェルディアの魅力というのだろうか。暁理は今はそれを明確に理解していた。こんな子ならば、あの偏屈な前髪が心を許していても不思議ではない。
(ま、まあだからといって、シェルディアちゃんに影人は渡さないけど・・・・・・!)
「どうしたの暁理? 私をジッと見つめて。私の顔に何かついてるかしら?」
「え? い、いや何でもないよ! シェルディアちゃん本当に可愛くて綺麗だから見惚れちゃってただけ! じゃ、影人のクラスの前まで行っておこうかシェルディアちゃん」
シェルディアにそう言われた暁理は、誤魔化すように笑みを浮かべた。
「嬉しい事を言ってくれるわね、ありがとう。そうね、なら行きましょうか」
「う、うん」
シェルディアは暁理の言葉に嬉しそうに笑うと暁理と共に2年7組の前へと移動した。
そして十数分後、暁理とシェルディアはコスプレ喫茶に入り影人のコスプレ姿を見るのだが、暁理は爆笑し、シェルディアも面白そうに笑うのだった。
こうして、文化祭1日目は和やかに終わっていった。




