第861話 弾けろ文化祭(1)
「ったく、世話の焼けるお化けだな・・・・・・・・」
後ろを気にしながら走っていた影人は、自分の方に倒れて来たお化けの格好をした生徒を咄嗟に抱き止める事に成功した。
「わっ、あ、ありがとうございます・・・・・!」
影人に抱き止められたお化け役の生徒は、少し恥ずかしそうになりながらもお礼の言葉を述べた。
「だ、大丈夫かい!?」
「ほっ、良かったわ・・・・」
「ふふっ、お転婆なお化けだこと」
その突然のアクシデントに、暁理も落ち着きを取り戻し影人たちの方に向かって来た。カボチャ頭の生徒は胸を撫で下ろし、シェルディアは軽い笑みを浮かべていた。
「脅かしてテンション上がってるんだろうが、ちゃんと気をつけろよ。あんたも文化祭初日でケガは嫌だろ?」
「う、うん・・・・・」
「ならいい。ついでだから言わせてもらうが、ここ楽しかったぜ。じゃあな」
影人はお化けの扮装をした生徒にそう告げると、自分の体をお化けの生徒から離した。そして、影人はスタスタと歩いて出口のドアを開けて出て行った。
「あ、ちょっと待ってよ影人! バイバイお化けさんたち! 僕も楽しかったよ!」
影人が脱出したのを見た暁理は、カボチャ頭とお化け役の生徒たちに手を振ると自分も急いだように出口に向かった。
「では私も出ましょうか。ふふっ、ありがとう。楽しかったわよ、陽華、明夜。また会いましょう」
残っていたシェルディアもそう告げると、出口へと向かって行った。
「何だシェルディアちゃんは気づいてたのね。というか、あの前髪くんとシェルディアちゃんが知り合いだとは思わなかったわ」
影人たちが全員出て行ったタイミングで、カボチャ頭の格好をした生徒――明夜がそんな言葉を呟いた。
「まあ、あの様子じゃ前髪くんは私たちの事に気がついてはいなかったみたいだけど・・・・・・・・って、陽華? ぼーっとしてどうしたのよ?」
明夜は自分の隣のお化けの格好をした生徒――陽華にそう声を掛けた。明夜の幼馴染みにして親友は、先ほどから黙ったまま出口のドアを見つめたままだった。
「ふぇ・・・・・? い、いや別に何でもないよ! 帰城くん、ちゃんと来てくれたんだなーと思っただけ! ほら明夜! 早く定位置戻らないと次のお客さん来ちゃうよ! 早く早く!」
「それはそうだけど・・・・何か変な陽華」
「別に変じゃないし! というか明夜には言われたくないし!」
「ちょっと、それどういう意味よ!」
陽華と明夜はそんなやり取りをしながら自分たちの定位置へと戻り始めた。
(ま、まだドキドキしてる・・・・・男の子に抱き止められたの初めてだったからかな・・・・? それにしても、帰城くん普段はあんな感じなんだ。すっごい優しかったな・・・・・・・・)
自分の心臓の鼓動が速くなっている事を自覚する陽華。危ない所を男子に助けてもらった事、同年代の男子に抱き止められた事、そして普段は陽華の事を嫌っている影人が見せた初めての普通の態度(影人は抱き止めたのが陽華だとは気づいていないだろうが)、これらの要素が重なったのが、陽華がドキドキとしている理由だろう。
しかし、そうだと分かっていても、それからしばらくの間、陽華の心臓は早鐘を打ったままだった。




