第860話 楽しめ文化祭(5)
『ここは呪われた幽霊屋敷。あなたたちはそんな屋敷に迷い込んでしまった不運な客人たち・・・・・あなたたちはこの屋敷から一刻も早く脱出しなければなりません。でなければ・・・・・きっと、恐ろしい目に遭ってしまうでしょう・・・・・・・・』
教室に入り入り口のドアが閉まると、どこからかそんなナレーションが聞こえて来た。それに伴いぼぅとした青い照明が2つ灯った。
「おおっ、いかにもって感じだ」
「ふふっ、ワクワクしてきたわ」
「ふっ、『不可思議の撃退者(また今思いついた)と呼ばれたこの俺が――」
「しつこいし興味ない。ほら行くよ影人」
「最後まで言わせろよ!」
影人を無視して歩き始めた暁理に影人はそう言って後を追った。シェルディアも暁理と一緒に歩いていたので、地味にシェルディアからも無視されていた前髪だった。
ぼんやりとした明かりのついた道を道なりに3人は進んだ。すると最初の脅かしポイントだろうか。3人の前に創作された井戸が現れた。
『1枚、2枚、3枚・・・・・』
先ほどのナレーション同様、どこからか声が聞こえる。女の声だ。女は低い声で何かを数えているようだった。
「ああ、これはあれか。まあ、ど定番だよな」
「だね。驚きポイントは9枚の所かな」
このシチュエーションからどんな脅かしが来るか予想できた影人と暁理は、そんな言葉を呟いた。まあ日本人なら大体は知っているシチュエーションだ。唯一、その辺りに詳しくないシェルディアだけは影人と暁理の会話を聞いて軽く首を傾げていた。
『4枚、5枚、6枚、7枚、8枚、9枚・・・・』
そしてその間にも声は何かを数え続け、遂にそれは9枚までいった。
(さて、来るか)
影人が井戸から白い幽霊の格好をした女でも出てくるだろうと思っていると、
「1枚足りなーい・・・・・・・」
突如として後ろからそんな男の声が聞こえてきた。
「「ッ!?」」
影人と暁理が驚いたように振り返る。すると超至近距離にピエロの扮装をした男子生徒がニチャリとした笑みを浮かべていた。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
「わ、わぁぁぁぁぁぁぁ!?」
まさか後ろから来るとは思っていなかった影人と暁理は、情けない叫び声を上げながら次の通路に向かって駆け出した。
「ふふっ、可愛らしいわね。待ってちょうだいなあなたたち」
シェルディアはピエロには全く驚かずに(というか接近されていたのはとっくに分かっていた)、のんびりと影人たちを歩いて追いかけた。
「うわー、地味にめっちゃ傷つくわ・・・・・」
シェルディアにガン無視されたピエロ役の男子生徒は3人が去った後にポツリとそう呟いた。
その後の影人たちは、
「うおっ!? 何かヒヤリとしたのが顔面に当たったぞ!?」
「しかもちょっとヌメってるし!」
コンニャクに顔面から当たったり、
「ッ!? イソギンチャクかよ!」
「ひゃ!?」
障子を突き破って来た手の大群に驚いたり、
「ふんふんふん! 君たち! 僕と筋肉を一緒に鍛えよう!」
「「やだよ!」」
マッチョな男子生徒に追いかけられたりした。これは別の意味で怖かった。
「はあはあ・・・・・で、出口はまだか・・・・・?」
「た、多分もう少しだと思うけど・・・・・」
「大丈夫あなたたち? 私はかなり楽しいけど」
取り敢えず、連続の脅かしポイントを何とかクリアした影人と暁理は疲れたような顔を浮かべていた。2人がこのお化け屋敷を舐めていた結果である。そして、シェルディアは全くの平常運転であった。
「嬢ちゃんは流石だな・・・・・・ん? おい暁理、あれ出口じゃねえか? 上に出口って書いてあるぜ」
角を曲がった影人は、正面にドアを発見した。出口だ。ようやくここから抜け出せる。
「本当だ。はあ、よかった。何だかんだ結構怖かった――」
影人の指摘に安堵のため息を吐いた暁理。だが、油断し切ったその瞬間、
「「ばあ!」」
突如として後ろからお化け(白いビニール袋を被ったような)とカボチャ頭の怪物が後ろから追いかけて来た。
「ッ!? マジかよ! 性格悪い奴らだなおい!」
「うわー!? 急にはやめてくれよー!」
この状況下、突然追われれば人は逃げるもの。影人と暁理は叫びながらゴールに向かって駆け出した。
「ふふふ、逃がさないわよ!」
「待て待て〜! お化けちゃんが食べちゃうぞ〜!」
そんな影人と暁理をノリノリで追いかけてくるカボチャ頭とお化け。その扮装をした2人は結構速く、影人と暁理にあと少しというところまで迫った。だが視界が悪かったためか、お化けの格好をしたその生徒は足をもつれさせた。
「あ・・・・・・」
「ッ!? よ――」
お化けの格好をした生徒が前のめりに倒れる。カボチャ頭の生徒は、倒れようとするお化けを助けようとした。だがそれよりも速く、
「ちっ・・・・・・・・!」
お化けの姿をした生徒を影人が抱きしめた。




