第86話 シェルディアの東京観光1(1)
「じゃあ、レイゼロール。私、しばらくここを離れるから。また暇になったら戻ってきて上げる」
ある日、唐突に美しいブロンドの髪を緩くツインテールに結った少女――シェルディアはそう言った。
「・・・・・・・そうか。残念ながら今の我にお前を止められるだけの力はないからな。好きにするがいい。・・・・・・・一応、どこに行くか聞いておこう。シェルディア、どこに行く気だ?」
世界のどこか。暗闇に包まれた場所で、レイゼロールはウキウキとした顔のシェルディアに答えを返した。
「秘密よ、ひ・み・つ。言っちゃったら面白くないでしょう?」
レイゼロールの問いかけにシェルディアは人差し指を口元に近づけて、パチリと片目でウインクをした。その仕草は、どこか無邪気なシェルディアにとても似合っていた。
「・・・・・・・・お言葉ですが、シェルディア様。どうかそこだけは教えていただけませんか? あなた様は私どもとは違い、色々と特殊です。あなたがその気になってしまえば、いくらレイゼロール様といえども気配を探知できない。ですから、どうか――」
レイゼロールの横に控えていた単眼鏡を掛けた青年――フェリートは恭しくシェルディアに言葉を投げかけた。
「嫌よ。何度も言わせないでちょうだい、フェリート。私は自由でいたいし、自由にやりたいのよ」
しかし、シェルディアの答えは変わらなかった。
「・・・・・・・・無駄だフェリート。この自由者に何を言ったところで変わらん。それはお前もよく分かっているだろう」
レイゼロールが軽くため息をつきながら、チラリとフェリートに視線を向ける。スプリガンによって黒い血を大量に流したフェリートは一時的に弱体化していたが、今は元の強さに戻っていた。まあ、執事であるフェリートは弱体化している間も変わらずレイゼロールの世話を焼いていたのだが。
「よく分かってるわね、レイゼロール。そういうことだから、私はこれで失礼するわ。じゃあね」
そう言い残すと、シェルディアは自らの影に沈んでどこかへと消えてしまった。何とも素早い決断である。
「・・・・・・・・よろしかったので、ご主人様? あのお方のことです。下手をすれば年単位でどこかへと消えかねませんよ?」
「別にいい。奴がどこに向かったのかは見当がつく」
そう。レイゼロールには、シェルディアがどこへ向かったのかおよその見当はついていた。シェルディアはこの前の自分の話に興味を引かれていた様子だった。であるならば、シェルディアの目的地はただ1つ。
フェリートに、そして自分すらも退却させた怪人が現れた地。
「・・・・・・伺っても?」
「奴が向かったのはおそらく――日本の首都、東京だ」
サブタイトルがかなりややこしくなってしまいました。申し訳ありません。




