第859話 楽しめ文化祭(4)
「ゴール! お客様のタイムは10分40秒です! 残念ながら、タイムは平均以下で景品はありませんがおめでとうございます!」
「くそっ、存外に時間掛かっちまったぜ・・・・・」
10分後。4組の迷路を抜けた影人は、少し悔しそうにそんな言葉を漏らした。所詮は迷路と思って高を括っていた影人だったが、迷路は予想以上に本格で難しかった。
「ふふっ、お疲れ様。影人」
「遅かったねー影人。いやいや、まさか僕たちより6分も遅いとは思わなかったよ。『前人未到の単独者(笑)』だっけ? あんまり大した事ないね〜。僕たちは最速記録って事で、景品までもらっちゃったぜ」
迷路を抜けた影人を先にゴールしていたシェルディアと暁理が迎えた。特に暁理はニヤニヤとした顔で、景品であっただろうジュースのペットボトルを軽く振りながらそんな言葉を言ってきた。
「うるせえ。嬢ちゃんについて行っただけの金魚の糞野郎にそんな事を言われる筋合いはないぜ。俺は自分1人で大冒険しながらゴールしたんだよ」
影人は少し機嫌が悪そうに暁理に言葉を返した。自分は1人で四苦八苦しながら、時に壁をぶち抜こうかと思い悩みながらゴールしたのだ。それこそが勲章。男の美学である。
「君、よくもまあ女子の事を金魚の糞呼ばわり出来るよね。本当に君って奴は色々欠けてるんだと分からされるよ・・・・・・・・・」
バカの前髪を暁理はいっそのこと哀れな目で見つめた。引くを超えると人間は哀れみを覚えると暁理は知った。
「ま、いいや。君に対していちいち何か思うと、日が暮れるしね。次のクラス行こう。次は5組のお化け屋敷だね。シェルディアちゃんはお化け屋敷好き?」
「怖いとかはないけど、けっこう好きね。色々と驚かせようという仕掛けが面白いから」
「俺も好きな部類だ。魑魅魍魎どもに恐れを抱かぬ者という状況が好きだからな」
「君には聞いてないよバカ前髪。しかも理由がまた終わってるし・・・・・」
そんな会話をしながら3人は2年5組に向かった。5組のクラスは数人ほど人が並んでいたので、影人たちは最後尾の看板を掲げている包帯を全身に巻いている男子生徒の場所に足を運んだ。
(・・・・・結局、流れで来ちまったな。このクラスは朝宮と月下がいるからあんまり来たくはなかったぜ。それに今日は2人との知り合いの嬢ちゃんもいるしな。だがまあ、あいつら驚かす側だろうからそんなに深く考えなくてもいいか)
5組には陽華と明夜がいるので、影人からしてみれば色々と思うところはある。だが、お化け屋敷という関係上、接触する機会は少ないだろうと影人は感じた。
「一応、約束もしちまったしな・・・・・・・」
「ん? 誰と約束したの?」
「別に何でもねえよ。ただの独り言だ」
ついいつもの癖で呟いた独り言。それに反応した暁理に、影人はそう言った。
「お待たせしましたー。次の方どうぞー」
それから約10分後、影人たちの出番がやって来た。影人たちは暗闇に包まれた教室へと足を踏み入れた。




