第857話 楽しめ文化祭(2)
「くそっ、最初のポーカーでさえ勝っていれば・・・・・・・・!」
「いや、明らかに最初の勝負で10枚全部賭けた君が悪いじゃん。本当、バカだよね影人って」
20分後。カウンター前に集まった影人たち。結果を言ってしまえば今の発言から分かるように、最初の勝負で全てのチップを失いチップが0枚になった影人がビリだった。ちなみに、暁理のチップの数は100枚だ。最初のチップの10倍になったので、まあ上々だろう。暁理はそれを3等のお菓子の詰め合わせセットと交換した。
「そんなバカの影人とは違って・・・・シェルディアちゃんは凄いよね。まさかチップを500枚稼いで一等のあのぬいぐるみゲットしちゃうんだから」
暁理はカウンターで女子生徒からぬいぐるみを受け取っているシェルディアを見た。シェルディアは見た目からは想像も出来ないような、凄まじい勝負強さを見せ、この短時間でチップの数を50倍に増やし一等のぬいぐるみを掻っ攫った。
「ふふっ、可愛いわね。何の生き物のぬいぐるみかしら?」
ぬいぐるみを両手で抱えたシェルディアが戻って来た。最終結果を整理すると、1位シェルディア、2位暁理、3位影人という事になった。2人とは違って、影人は残念賞というか情けのいちご味のアメだけを獲得した。
「それじゃ、言い出しっぺの影人が負けたから、3組のあべこべ喫茶は影人の奢りね」
「はあ!? おいそんな事は聞いてねえぞ!」
「何さ敗者には相応しい罰だろ。君は勝負に負けたんだぜ? それくらいはやってみせるのが勝負師ってものだと思うよ」
「ぐっ・・・・・・・・・あーもう、分かったよ! 好きにしやがれ!」
暁理にそう言われた影人は、少しヤケクソ気味にそう言った。
「やったねシェルディアちゃん。そういう事だから、次のクラスでは1番高い物注文してやろうよ」
「ふふっ、そうね。それくらいはしてもらおうかしら」
影人から言質を取った暁理とシェルディアは楽しそうにそう言葉を交わしあった。最初はどうかと思ったが、シェルディアと暁理の仲は良好だ。まあ、何も知らない暁理からしてみれば、シェルディアはあくまで可愛らしい外国人の少女なので、関係が悪化するような理由は逆にないのだが。
「それじゃ、次は3組にレッツゴーだね!」
「あんま高いのは注文するなよ。俺金そんなないんだからよ・・・・・」
元気よく3組のドアを開けた暁理に、影人はため息を吐きながらそう呟いた。
「いらっしゃいませぇー! あべこべ喫茶へようこそぉ!」
ドアを開けると野太い声が影人たちを迎えた。声のした方向に目を向けてみると、坊主頭の野球部員と思われる男子生徒がメイド服に身を包んでいた。影人はいきなり精神に強烈なジャブを受けた。
「おお・・・・僕が言えた義理じゃないかもだけど、気合い入ってるね」
「なぜ男が女給の格好をしているのかしら? お世辞にも似合ってるとは思わないけど」
「だからあべこべなんだよ。すいません、3人でお願いします」
暁理とシェルディアはそれぞれそんな反応を男子生徒に示した。シェルディアに関しては素直な疑問と感想なのだろうが、聞く人によっては若干失礼なので、影人はフォローを入れつつ男子生徒に案内を頼んだ。
「では、こちらの席をどうぞぉー!」
男子生徒はもはや色々と悟ったり吹っ切れているのだろう。明るい声でそう言うと影人たちを空いている席に案内した。
(別に昨今のジェンダー観にとやかく言うつもりは全くないが、いわゆる普通の男子にとっては中々に地獄だよな・・・・・・・俺だったらゲロ吐くぜ)
影人は男子生徒の目の奥が軽く死んでいたのを見逃さなかった。別に女装が好きな男子もいる。それはそれでいいだろう。しかし、多くの場合は男子は異性の服装を纏うのを嫌がるものだ。まあ、それは女子もそうかもしれないが、影人は男性なのでその辺りの事は正確には分からない。




