第855話 文化祭と乙女たち(4)
「じゃあな暁理。俺はこの嬢ちゃんを案内しなきゃならないからよ。またな」
「あ・・・・・・・・・・」
影人は暁理に軽く手を振りながらそう告げた。暁理はどこか悲しそうにそんな声を漏らしたが、色々と欠落している前髪野郎は平然とその声を無視して、歩き始めた。人間のクズである。
「ふーん・・・・・・・・・・」
影人とは違い、その辺りも色々と察しのいいシェルディアは、暁理をジッと見つめていた。
「ん? どしたんだよ嬢ちゃん。行くんじゃなかったのか?」
ついて来る気配のないシェルディアに、影人は振り返ってそう言葉を飛ばしたが、それでもシェルディアはその場から動く気配を見せなかった。
「・・・・・ねえ、よかったらあなたも一緒に回らない?」
「「え?」」
そして、シェルディアは唐突にそんな提案を暁理に投げかけた。その意外な提案に、影人も暁理も驚いたような顔になった。
「本当は私も影人と2人きりで回りたいけど、あなたは影人の数少ない友人なのでしょう? それに、あなたは影人の事を《《色々と》》想ってくれているようだし・・・・・・・・・どうする? 決断するのはあなたよ」
「っ・・・・・・・・・!」
その言葉を受けた暁理は、今日を含めたった2回しか会った事のないシェルディアが、自分の影人に対する気持ちを知っているのかと推察した。自分の心臓の鼓動が早まったのを暁理は感じた。
(で、でもこれはチャンスだ・・・・! 僕1人だけだったら、影人と一緒に文化祭は回れない。なら、僕の答えは決まってる・・・・・・)
色々と欠落している前髪のせいで、暁理は影人に素直に一緒に文化祭を回ろうなどとはどうしても言えなかった。だが、このタイミングならば暁理も影人と同行する事は可能だ。
「な、ならお願いするよ。僕からしてみれば、そこの前髪が君みたいな可愛くて綺麗な子にいつ何するか不安でしかないし。僕の名前は早川暁理。よろしくね」
「そう。よろしく暁理。私の名前はシェルディアよ」
暁理はシェルディアの提案に頷き自己紹介をした。シェルディアは軽い笑みを浮かべながら、暁理に自分の名前を告げた。
「げっ、お前マジでついて来るのかよ。お前俺に対して怒ってだろ。その怒りはいいのか?」
その答えを聞いていた影人は面倒くさそうな表情になると、暁理にそう聞いた。暁理は影人が夏休みにどこかに一緒に行くという約束をすっぽかしてから、影人に対して怒っていた。影人はまあいつか機嫌を直すだろうと、暁理に全く干渉していなかったが、自分に対してまだ怒っていたはずだ。
「怒ってるに決まってるだろ! 影人が謝罪と埋め合わせしない限り、絶対に許してやらないんだからな! でも、僕は大人だし今回は怒りを一旦抑えてるってだけさ。そこのところは勘違いするなよ!」
そして案の定というべきか、暁理はまだ怒りを噴火させたままだった。
「お前も大概に面倒くさい奴だよな・・・・・・・」
一瞬で怒りを露わにした暁理を見た影人は、ポツリとそんな言葉を漏らした。
「ふふっ、あなたたち仲が良いのね。じゃ、行きましょうか暁理、影人」
「う、うん」
「仕方ねえな・・・・・・」
こうしてシェルディア、暁理、影人の3人は一緒に文化祭を回る事になった。




