第853話 文化祭と乙女たち(2)
「さて、最初はどこから行く? 嬢ちゃんパンフレットいま校門近くでもらってたけど、気になる所はあるか?」
「気になる所というか、私はあなたと一緒ならどこでも楽しいわ。だから、気ままに回りましょう」
「分かった。でも俺、今日嬢ちゃんと一緒に回れる時間あと2時間しかないからな。そこだけ気をつけてくれ」
シェルディアらしい返答だなと思いつつも、影人はシェルディアにそう言葉を返した。影人は2時間すればまた着替えてクラスに戻らなければならない。
「了解よ。じゃあ、その間に目一杯楽しまなければね」
シェルディアは影人のその言葉に首を縦に振った。
「そうかい。あ、嬢ちゃんちょっと待ってくれ。俺まだ昼飯食ってなくてさ。出てる屋台で何個か飯だけ買わせてくれ」
「うん、分かったわ。なら、私も何か食べようかしら」
影人とシェルディアは外に出ている食べ物系の屋台を2、3軒ほど回った。影人はフランクフルトと焼きそばを。シェルディアはたこ焼きを買った(というか影人が奢った)
「嬉しいけど、別に買ってくれなくてもよかったのに。私、東京に住み始めてから、ちゃんと日本円は持つようにしているし」
「ははっ、いいんだよ。その、色々とした礼の一環だ。まあ安っぽすぎるけど。俺もただの高校生だ。悪いが、そこは容赦してほしい」
シェルディアと影人は中庭の空いているベンチに食べ物を持って腰掛けた。影人が奢った事に対し、シェルディアはそんな事を言ってきたが、スプリガンの正体を誰にも口外せずに協力してくれている事などに関する感謝の意も込めて、影人はシェルディアに対し無理矢理気味に奢ったのだった。
「ふふっ、そういう事なら素直に頂いておきましょう。ありがとう影人」
影人の言葉の意味を悟ったシェルディアは、笑みを浮かべた。影人も軽く口角を上げながら頷くと、フランクフルトに齧り付いた。
「うーん、やっぱ祭りはフランクフルトだ。そういや、嬢ちゃんの主食って何なんだ? いや、嬢ちゃんってアレだろ。やっぱりトマトジュースという名の血なのか?」
影人はフランクフルトと焼きそばを食べながら、シェルディアにそんな質問をした。一応、学校なのでシェルディアの正体に関する言葉はボカしながら。質問の意図は単なる好奇心だ。
「ええ。私は生物の血液・・・・・とりわけ人間の血を一定の量摂取さえしていれば、栄養源はそれだけで足りるわ。だからあなたの言葉通り、主食は人間の血ね。でもだからといって、こういった食べ物を食べないという事はないわ。私、食事も好きだから。あと、言葉ボカさなくていいわよ影人。今この辺りに『世界』の応用で私たちの声が聞こえないようにしたから」
「おう、マジかよ・・・・・流石は嬢ちゃんだぜ・・・・・」
全く分からなかった。サラリととんでもない事を言ったシェルディアに、影人は少し引いた。その凄さから。
「私も質問なのだけれど、スプリガンの時のあなたはその前髪が長さを変えて顔が露出しているわよね。あれってあなたの素顔なの?」
「ああ一応な。目の色は金じゃなくて、普段は黒だけど」
自分たちの声が誰にも聞こえないという状況を利用して、シェルディアも影人に質問を投げかける。影人もその状況に安心しながらしっかりと答えを述べた。




