第852話 文化祭と乙女たち(1)
――話は数分前に遡る。
「はあー・・・・・・」
自分の教室である2年6組から出た暁理は、大きなため息を吐いた。
(休憩時間はもらったけど、どうしようかな・・・・・・友達に一緒に回らないか、とは言われたけど・・・・)
暁理は廊下をブラブラと歩きながらそんな事を考えた。せっかくの文化祭だ。色々と回って楽しまなければ損というものである。だから、どこぞの最低前髪と違って友達が普通の数くらいいる自分は、友達と文化祭を楽しむ事が可能だ。
(・・・・・・・・・・でも、僕は本当は影人と一緒に文化祭を回りたいんだよなー)
だが、暁理が望むのはその最低前髪と一緒に文化祭を回る事だ。確かに影人とは違う友達と文化祭を回るのも楽しいだろう。しかし、影人と回ればそれはきっともっと楽しい。
「はあー、本当あのバカ前髪・・・・ん?」
暁理が再びため息を吐きながらそう呟いた時だった。暁理は、廊下の先に見知った背中を見かけた。
「あれって、影人だよね・・・・・・・・?」
黒一色の少し長めの襟足。標準の身長と体格。一見すると何の特徴もない後ろ姿だが、その特徴のなさが逆に影人だと付き合いの長い暁理には分かった。
(影人も休憩時間なのかな・・・・? だとしたら・・・・・・・・こ、これってもしかして、チャンスなんじゃないか・・・・・!?)
暁理はハッとした。違うクラスで休憩時間が被るなんて、これはもう一種の運命なのではないか。つまり、暁理と影人が一緒に文化祭を回るという事の。
(で、でも何て声かけよう・・・・・? 影人が絶対に悪いとはいえ、僕は影人を拒絶しちゃったし・・・・ッ、というかこのままじゃ見失っちゃう。後を追わないと!)
暁理がそんな事を考えている間にも、影人は廊下を曲がって姿を消した。暁理は悩むのは後だと割り切り、小走りに駆け出した。
そして時は現在に至る。
「な、仲良く手なんか繋いじゃってさ・・・・・! 僕だって影人とまた手を繋ぎたいって言うのに・・・・・・・・!」
草葉の陰から何とやらではないが、暁理は羨ましそうに影人とシェルディアを見つめていた。羨望と嫉妬の気持ちが自分の胸に渦巻くのを暁理は感じた。
(あの子は前に影人にお弁当を届けに来た子だよね。あの時影人はただの知り合いみたいな感じでボカしてたけど、どこがただの知り合いだ! あのロリコン前髪!)
影人に対して軽い殺意を覚える暁理。自分はこんな気持ちだと言うのに、あの最低ロリコン前髪は仲良くデートと来ている。暁理からしてみれば、到底許せるものではない。
「ん・・・・・・・・・?」
「どうしたの影人?」
「いや、何か寒気がしてな。まあ、気にするほどの事でもねえさ」
暁理の殺意を感じたのか、影人はブルッと一瞬体が震えた。しかし、影人はその事をあまり気にしはしなかった。




