第85話 強くなりたいと願うこと(5)
「・・・・・・本当?」
「ああ、僕に出来ることはそれくらいだからね」
ガシッ! と陽華は光司の手を握って感謝の言葉を述べた。
「ありがとう、ありがとう香乃宮くん! 本当に助かるよ!!」
「あ、朝宮さん!? お、落ち着いて・・・・・!」
陽華に突然手を握られた光司は再び顔を赤くさせ、心臓の鼓動が速くなったのを感じた。
陽華も突然手を握られてはびっくりすることに気がついたのか、「あ、ごめん!」と言って、素早く手を話した。
「あまりに嬉しかったもので・・・・・・でも、本当にありがとう香乃宮くん」
陽華は頭を下げて、再び光司にお礼の言葉を述べた。
「頭を上げて朝宮さん。僕がそう思ったのは、君の君たちの真摯な姿勢のためさ。君たちみたいな人には、力になりたいと思うのが、人の気持ちというものだよ」
いつも通りの爽やかな笑みを浮かべて光司はそう言った。力になりたいと思えるのは、間違いなく陽華とここにはいないが明夜の人徳のおかげだ。
「でも彼女にも色々と都合があるだろうから、日程が合い次第君たちにも伝えるよ。それでいいかな?」
「全然! えへへ、やっぱり持つべき者は友達だね!」
「そうだね・・・・・・」
友達、という言葉で思い出されるのは、1人の同級生だ。前髪が長くて、雰囲気が少し暗いその彼とは、結局拒絶されて友達にはなれなかったが。
拒絶されたのならば仕方がないのだが、その事実は光司の胸の内に気がかかりなものとして残り続けていた。
「・・・・・・・じゃあ、僕はそろそろ帰らせてもらおうかな。朝宮さんは、どうぞごゆっくり。支払いは朝宮さんがトイレに行ってた間に済ませておいたから」
陽華のアップルティーの残り具合から、もう少し時間が掛かるだろうと判断した光司は、そう言うと席を立った。
「え、ええ!? そんないいよ! お金返すから!」
いつのまにか伝票が消えていたことに、今更気がついた陽華は慌てて財布を取り出そうとする。しかし、光司は陽華がそう言うであろうと思っていたので苦笑した。
「いや、僕から誘ったんだからこれくらいはね。朝宮さん、今日はありがとう。楽しかったよ」
光司はそう言い残すと、そそくさと店を後にした。
「あっ、香乃宮くん・・・・・・今日は本当に色々ありがとう!」
「どういたしまして」
そのお礼の言葉を光司は素直に受け取った。
「強くなりたい・・・・・・・か」
しえらを出た光司は帰路につきながら、陽華が言ったことを反芻していた。
光導姫ならば、守護者ならばそのようなことは1度は誰でも思うのではないだろうか。いや、もしかしたら普通の人間もそんな気持ちは抱くかもしれない。
(・・・・・・・俺はいつから、そんな気持ちを忘れたんだろうか)
守護者に成り立ての頃は、常々そう思っていた。早く強くなって、光導姫たちを守るのだと。もちろん、今でも向上心はあるにはある。だが、それは昔ほどではないだろう。
(ランキングが10位になって、2つ名が守護者名になってからは、全くそんなことは思わなくなった・・・・・・)
自分もまだ守護者になって1年と少しの若輩者だ。そんな自分が一体何を勘違いしていたのか。
「・・・・・・・たるんでるな」
自分もまだまだ強くなろう。あの2人をしっかり守れるように。
光司はそう誓うと、夕暮れに染まる空を見上げた。




