第845話 文化祭、開幕(2)
「まず、こういった機会に巡り会えた事に感謝を。君たちの活動を身近で見るのは、素晴らしかった。まるで色とりどりの美しい宝石を見ているような気分だったよ。それ程までに君たちは輝いていた」
ロゼは笑みを浮かべると、自分の右手で胸部に軽く触れながらペコリと頭を下げた。
「本来ならば、私はこの特別アドバイザーという仕事を受けるつもりはなかった。それは私の信条に関係しての事だ。しかし、私はこの仕事を受けた。それは、ここにいる真夏くんの熱意を受け取ったからだ。それ程までに、彼女の熱意は真摯だった。そして、それは君たちも同様だ」
グルリと体育館に集まる生徒たちを見回しながら、ロゼは最後にこう言葉を締めくくった。
「君たちのこの祭典は間違いなく成功するだろう。君たちの活動を見ていた私が断言しよう。文化の祭典、ここに開幕だ。諸君、素晴らしい3日間を過ごしてくれたまえ!」
途端、パチパチと喝采の嵐が巻き起こる。影人も仕方なしに軽く拍手をする。ロゼに振り回された影人には分かるが(残念極まりない事に)、ロゼの言葉は世辞や嘘ではなく本心からのものだ。全く、よくもまああんな言葉を本心から言えると影人は思った。
「ありがとう『芸術家』! さあ、もう言葉はいらないわ! 各クラス、順番に体育館から出なさい! 祭りよ祭り!」
最後に真夏がそう言うと、開会式は終わった。後は全員各自のクラスに戻って、それぞれ出し物をしたり遊んだりするだけである。
「うはははっ! 今日という日を楽しみにしてたぜ! ゲロ吐くまでこの3日間遊びまくってやる!」
「くくくっ! 俺はやるぜ! この浮かれた期間を利用して、女子に告白してやる! 俺が目指すのは甘ったるい青春よ!」
「ねえねえ、この後暇? 暇なら一緒に見てまわろうよ!」
「私は彼氏と文化祭デートするんだー! もう楽しみ過ぎて昨日から全然寝れてない(笑)」
開会式が終わると、そこらじゅうからそんな声が聞こえて来た。まだ自分のクラスが体育館を出る誘導を受けていない影人は、長椅子に座りながら適当に考えを巡らせた。
(えーと、確か嬢ちゃんは昼過ぎくらいに来るって言ってたな。ヤベェ、明確な時間は聞くの忘れてた・・・・・・だがまあ、嬢ちゃんは一応1回ここ来てるし大丈夫か)
そんな事を考えている影人。そして、そんな影人を前からジッと見つめている人物がいた。
(あー、結局気まずいまま文化祭になっちゃったじゃないか・・・・・・・・・! こんな事になるなら、もっと早くに僕が謝って・・・・・いや、僕は悪くないんだから、やっぱり謝ってこない影人が悪いんだ!)
影人を見つめて、いや軽く睨んでいたのは影人の所属する2年7組の1つ前のクラス、2年6組に所属している早川暁理だった。暁理は影人を睨みながら内心でそんな事を考えていた。
「どうしたの早川さん? 何か顔怖いよ?」
「え? そ、そうかな。ごめんごめん、ちょっと色々と考えててさ」
すると、暁理の横に座っていた同じクラスの女子生徒が心配そうにそう話しかけて来た。女子生徒にそう指摘を受けた暁理は、ギクリとしたように苦笑いを浮かべながらそう弁明した。
(ああもう! これも全部影人のせいだ! 泣いて謝っても、文化祭デートしてやらないんだからな!)
暁理が内心かなりキレている事も知らずに、当の本人である影人は、
「ふぁ〜あ・・・・・・眠い」
のんびりとあくびをしていた。




