第84話 強くなりたいと願うこと(4)
「あ、フレンチトースト嫌いだった? ごめんね、無理矢理食べさせようとして・・・・・」
そして光司の姿を見た陽華はそう誤解して、手を引っ込めようとした。
「ッ・・・・・・!」
気がつけば体が勝手に動いていた。
「わっ・・・・・!」
光司は自分からフレンチトーストに食いついた。
フォークから口を離し、少し冷めてしまったフレンチトーストを咀嚼する。食感はトロトロで陽華の言うとおり、絶品だった。
「ごくん・・・・・・・・あ、ありがとう朝宮さん。とってもおいしかったよ」
なんとか顔が赤くならないように努力しながら光司は、できるだけ自然にそう言った。
「でしょ!? よかったー、香乃宮くんフレンチトースト嫌いなのかと思ったよ。あれ? 香乃宮くんちょっと顔赤いけど大丈夫・・・・・?」
だが、光司の努力は無駄に終わったようで、陽華が心配そうな顔でそう言ってきた。
「だ、だだ大丈夫だよ! ちょっと暑くなってきたかなって感じてるだけだから!」
光司は今日1番テンパりながら、必死の弁明を行った。いつもより、笑顔がぎこちないないのはきっと気のせいだと信じたい。
「・・・・・・・青春」
その様子を見ていたしえらはボソリとそう呟いた。その目はどこか優しかった。
「・・・・・・・朝宮さん、そろそろいいかな?」
予期せぬハプニングはあったものの、陽華もフレンチトーストを食べ終え、食後にアップルティーを注文した。
そして、ほっこりとしたところで光司はそう切り出す。幸い、自分たち以外にいたお客のお年寄りもつい先ほど帰ったところだ。
「・・・・・うん。いいよ」
陽華も光司のその言葉が何の合図かはわかったていた。だから、陽華も静かに頷いた。
「ありがとう。・・・・・・・じゃあ、まずは君たちがスプリガンから攻撃を受けた、と僕は聞いたんだけどそれは真実かい?」
光司はラルバから聞いた最も気がかりであったことを陽華に質問した。ラルバが嘘をつく理由はないし、またあの神が嘘をつくはずはないと光司は信じているが、当事者である陽華の言葉を光司は聞きたかった。
「・・・・・・・結果的にはね。でも、誰も怪我なんかはしてないよ。それに・・・・・・・あの時のスプリガンはどこか様子がおかしかったように思うの」
「・・・・・・・・・そうか。やはり奴は僕たちの敵なのかもしれないな。目的も何も分からないが、君の言うとおり結果的には君たちを攻撃したわけだしね」
「私は・・・・・私と明夜はそうは思わないよ。スプリガンは私達を助けてくれた。だから私たちはスプリガンを信じるよ」
「っ・・・・・・・」
陽華は毅然とそう言い放った。その目にあるのは、様々な決意の色。光司には、どうして陽華がそう言えるのか分からない。
「君は・・・・・・君たちはなぜそんなに彼のことが信用できるんだ? 攻撃を受けたんだろう? なのに何でそんなに・・・・・・・」
「んー・・・・・・・・最終的にこれは私の勘なんだけど、きっとスプリガンは不器用なだけだと思うんだ。でも、優しい人なのは間違いないよ。でなきゃ、人は助けないもの」
「・・・・・・・・・」
その言葉を聞いた光司は、朝宮陽華という少女は何と純心なのだろうと思った。人を信じるということは、言葉では簡単に言えても、実際にそれを行うことは難しい。ましてや、1度攻撃を受けた相手に陽華は変わらない気持ちを抱いている。
陽華にそこまで信用されているスプリガンを光司は少しうらやましく思った。
(っ・・・・・・・・俺は何を考えているんだ)
そんなことを思った自分がどこかおかしくて、光司はすぐさまその気持ちを否定しようとした。
「・・・・・・・・そうか。君たちがそう考えているのなら、もう僕は何も言わない。でも、やっぱり僕はまだスプリガンを信用できない。今回のことを聞いて僕は余計にそう思った。・・・・・・彼を信じている君たちには申し訳ないけど、それが今の僕の偽らざる気持ちだ」
陽華の話を聞いた上で、光司は自分の変わらない本心を口にした。自分はやはり、まだスプリガンのことを信用できないのだ。
「ありがとう、香乃宮くん。誠実に自分の気持ちを言ってくれて。・・・・・・・私からも1つだけ聞いてもいいかな?」
「何かな?」
「香乃宮くんはどうやって強くなったの?」
「・・・・・・・・どうしてそんなことを?」
光司には陽華の質問の意図が分からなかった。だから、光司はその理由を陽華に問うた。
「・・・・・・・私達は弱い。危険になったら私達はいつも誰かに守られる。本当なら、私達が誰かを守らないといけないのに。それだけの力を私達はソレイユ様から与えられたはずなのに。だから、私と明夜は思ったんだ。強くなりたいって」
いつもより、少しだけ声のトーンを落として陽華は儚げに笑みを浮かべた。いつもの元気いっぱいの笑みとはどこか違い、どこか弱々しい笑みだ。
「香乃宮くんが守護者としてとっても強いことくらいは、私達にもわかる。だから香乃宮くんがどうやって強くなったのか、知りたいなって思ったんだ。もしかしたら、参考になるかと思って」
「朝宮さん・・・・・・」
まだ新人の光導姫であるのに君がそんなこを思う必要はない、とは光司には言えなかった。そんなことは陽華もわかりきっていることだろう。それでも、陽華は強くなりたいと言っているのだ。
「・・・・・・・・1番力をつけられるのは、夏の研修だと思う。これはたぶん光導姫にも言えることだ。あの研修は、色々なことを教えてもらったり、基礎的な体力を鍛えたり、明確な力をつける研修だからね。でも、研修はまだ先だ。君たちはそれまで待てないんだろ?」
「あはは、おっしゃる通りです・・・・・・」
陽華は困ったような笑みを浮かべた。自分が無茶を言っていることは百も承知だ。
それでも、もうこの思いは止められない。
「正直に言えば、僕には光導姫のことはよく分からない。光導姫には守護者とは違って能力があるからね」
「だよね・・・・・・」
分かってはいたが、陽華はガックリと首を落とした。やはり、光導姫のことは光導姫に聞くしかないのだろうか。
(うう・・・・・・アカツキさんに聞きたいけど、今度いつ会えるかわからないんだよね)
陽華が自分たち以外に知っている光導姫と言えば、フードを被った光導姫アカツキだけだ。しかし、そのアカツキにコンタクトする方法が自分たちにはない。
「・・・・・・・だから、光導姫のことは光導姫に聞くのが1番だと思うよ。それも、日本で1番強い光導姫にね」
「え・・・・・・・・?」
「光導姫ランキング4位『巫女』。強くなりたいのなら、強い人に聞くのが1番だ。幸い僕はプライベートで彼女と知り合いでね。よければ、君たちと会ってもらえないか連絡してみるよ」
光司のその言葉は陽華が思ってもいないものだった。




