第835話 協力者、シェルディア(1)
シェルディアが放った予想外に過ぎる言葉。それを聞いた影人とソレイユは、その余りの驚きからしばらく固まっていた。
「・・・・・・・・・・・どういう事だ?」
先に声に出したのは影人だった。影人はシェルディアの意図を探るように、前髪の下の両目を人の姿をした怪物に向ける。
「別にそのままの意味よ? 私はあなたたちから聞いた話を誰にも、レイゼロールに言うとも言っていない。今のところ、私はこの事を自分の胸に仕舞っておくつもりよ」
「ッ!? その意図はなんだって聞いているんだ・・・・・・!」
自分の理解を超えた言葉に、影人は苛立ったように少し声を荒げた。そんな感情的な影人に、シェルディアは珍しいもの見るように笑みを浮かべた。
「ふふっ、あなたもそんな顔をするのね。まあ、昨日のあなたはそれよりももっと激しかったけれど。意図はそうね・・・・・・・・・・その方が面白そうだから、かしら」
その答えはふざけたように感じられるものだったが、シェルディアを知っている者からすれば、それはどこまでもシェルディアらしい理由だった。
「面白そう・・・・・・? そんな理由でか・・・・・?」
だが、シェルディアのそういった性質をあまり知らない影人からしてみれば、その答えは未だに理解を超えているものだった。影人は呆然とした表情を浮かべた。
「・・・・・あなたらしい理由ですね。確かに、あなたはレイゼロールの部下ではなく、彼女と対等な関係にあります。だから、話すも話さないもあなたの自由ではありますが・・・・・・・・・」
一方、シェルディアのそういった面を知っているソレイユは一応は納得した。しかし、やはり今回ばかりは全面的に信用する事が出来ず、その顔には訝しげな色が見て取れる。
「・・・・・・対等は対等でも、あんたがレイゼロールサイドに属している事に変わりはないだろ。あんたがこの事をレイゼロールに話せば、スプリガンという怪人は瓦解するんだぞ? それだけじゃない、俺たちの考えていた計画も事前に防げる。あんたの考えは、貴重な物をドブに捨てるのと同じ行為だ」
前髪の下の目を細めながら、影人はシェルディアの圧倒的なアドバンテージ性を説いた。影人には、やはりシェルディアの考えが理解できない。何せ、自分たちは敵同士のはずだ。
「そういったところはまだ青いわね、影人。世の中には、損か得かというだけで理由になり得ない事もあるのよ。それとも、あなたは私がレイゼロールにこの事を話す事を望んでいるの? あなたの今の言葉からは、そう聞こえるけど」
「っ、別にそうは言ってない。俺たちからしてみれば、あんたの言葉はうますぎると思っただけだ」
逆にシェルディアにそう言われてしまった影人は、顔を少し背けてそう言った。シェルディアからまだ青いと言われた事が、前髪の心にチクリと刺さった。
「なんならあなたたちが考えている計画、私も協力してあげてもいいわ。私が協力してあげれば、計画は格段にその成功率を上げるでしょうし」
「「ッ!?」」
再び悪戯っぽい笑みを浮かべたシェルディアが放った言葉の爆弾。それを聞いた影人とソレイユは、再びその表情を驚愕に染めた。
「ほ、本気で言ってんのかよ・・・・・・・・・・?」
いったい今日何度目になる驚きか、影人は信じられないといった感じでそう呟いた。もはや驚きすぎて引いている。そんな感じだ。
「本気も本気よ。あなたたちが私を信じてくれるならね。この私が、あなた達の協力者になってあげるわ。きっと、そちらの方が面白いでしょうしね」
悠然とした態度をどこまでも崩す事なく、シェルディアはそう提案する。それは禁忌の果実のように、影人とソレイユにとって甘過ぎる話であった。
「・・・・・・・・・・・・・・あなたを信じれば、あなたは私たちの協力者となってくれるんですね?」
まるでその果実に誘われるように、ソレイユはシェルディアにそう聞き返した。




